| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-20 (Poster presentation)
外来のアメリカツノウズムシは,尾部を切り離すように無性生殖を行うことが分かっているが,その分裂が体構造や行動などの生命活動に与える影響については明らかにされていない。それに加え,本種の先行研究は飼育下のものがほとんどである。そこで,尾を切るという無性生殖法に興味を持ち,それが生存や繁殖に有利ではないかという観点から,野外での調査を含め,本研究を行った。
本種の分裂を「自切」,また分裂後の頭部側を「本体」,尾部側を「自切片」と呼んだ。野外調査は石川(大和川水系)の河川敷を流れる水路で,2020年1~8月の7回,水底の巨礫に付着する本種の生息状況を調査した。室内実験では,野外で採集した本種を1個体ずつシャーレに入れ,4通りの給餌頻度でレバー片を与え,15℃と20℃恒温下で観察した。自切が確認できた場合は,分裂の位置を確認し,本体と自切片の各行動を1分間ビデオで撮影し,その映像から移動距離を求めた。
野外で確認した本種は全て巨礫の裏側に生息し,調査期間を通じて自切によって生じた個体を確認した。室内実験では,給餌頻度が高い場合自切を繰り返したが,低い場合は全く自切しなかった。自切は全ての個体が咽頭の後方で行い,本体側には主要器官が揃っていた。自切後,本体は自切前と同様に移動し続けたが,自切片は全く行動せず,眼が完成すると移動し始めた。
以上の結果から次のような考察を行った。本種が生息する巨礫の裏面は,捕食者から身を守る安全な場所である可能性が高い。咽頭の後方で自切することで,主要な器官が揃った本体は自切前と同様に行動して積極的に捕食を続け,栄養を蓄えて再び自切を行うと考えられる。一方,自切片は眼の視覚を得るまで安全な場所でとどまり,主要な器官が再生されると,本体と同様に行動し捕食すると考えられる。尾を切り離す自切は,本体は繁殖に,自切片は生存に有利であり,生存・繁殖戦略上有効な生殖法だと言える。