| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-21 (Poster presentation)
海水温の上昇に伴うサンゴの白化現象に象徴されるように,海底に固着しその場を離れられない生物は環境の変化に弱い。成体は浮遊生活をするクラゲにも,固着生活のポリプ期がある。本研究の材料であるマミズクラゲは,淡水域に生息する唯一のクラゲであり,ポリプは「フラストレ」と呼ばれるナメクジ様の体に姿を変え,固着生活から離れることができる。しかし,フラストレの生態,特になぜ形成されるのか分かっていない。そこで,フラストレ形成を「脱固着」と呼び,それは環境悪化から逃れるために起こるのではないかと仮説を立て,今回は栄養条件の悪化に着目して研究を行った。
才ヶ原池(大阪府)産のマミズクラゲを用いて,実験を行った。【実験1】は移動能力を調べる目的で行動を追跡したところ,ポリプは全く,フラストレはほとんど移動しなかった。【実験2】は水流から受ける影響を調べる目的で5段階の流速の水流を当てたところ,ポリプは最速でも全く流されなかったが,フラストレは最遅で全て流された。【実験3】は栄養条件の影響を調べる目的で3段階の給餌頻度で飼育したところ,高頻度ではポリプの口数が増加して成長し,低頻度では口数が減少して衰退し,中頻度では口数がほぼ一定で成長せず,フラストレが多数出現した。
以上の結果から,フラストレは数日間で固着してポリプに戻ったため,自力での移動能力はほとんどないが,わずかな水の動きで浮遊して移動する可能性が高い。マミズクラゲの生存戦略について,栄養条件が良い場合,ポリプは口数を増やし,より多くのエサを得ようとするが,栄養条件が悪化した場合,より良い環境を求めて浮遊し移動するために脱固着のフラストレを形成すると考えられる。クラゲの一部が淡水域に進入したとき,海では安定していたポリプ期の環境が,淡水では不安定であったことから,脱固着のフラストレを形成するように進化したのではないかと,新たな仮説を立てた。