| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-27 (Poster presentation)
トウカイコモウセンゴケ Drosera tokaiensis は東海地方を中心とした栄養の少ない湿地帯にのみ存在する食虫植物である。特異的な地域環境要因への依存度の強いトウカイコモウセンゴケは、開発や人間の生活様式の変化による植物遷移の進行、自生地破壊と富栄養化などに起因する生育環境の改変によって生息の危機が進行している。本研究ではトウカイコモウセンゴケの基礎的な生態などを明らかにすることで、今後の保全活動へ活かすことを目的としている。
本年度、トウカイコモウセンゴケの生態について以下の2点に着目して研究を行った。
1つめは葉色の変化の要因である。以前の研究で緑色の葉をもつ個体を日向に移すと、赤色の色素であるアントシアニンを合成して、1週間で赤色の葉に変化することが分かった。本年度では、日向・日陰といった条件以外の影響を明らかにするために、水温、光の波長、土壌水分量、pHをそれぞれ変化させながら生育することで葉色が変化する要因を調査した。
2つめは葉色の変化の利点である。園芸用のモウセンゴケはナメクジのような食害者に食べられることが分かっている。そこで、トウカイコモウセンゴケは葉にアントシアニンを蓄積することで、食害者から食べられにくくしているのではないかと考え、赤色の葉が食害者の採食量に影響するのかどうかを調査した。
実験の結果、昼白色、青色、赤+青色、赤色、暖白色の光を当てて生育させた個体は葉色が赤くなった。また、酸性条件下で生育させた個体の葉色が赤色に変化した。赤色の葉による食害者への忌避効果を調べる実験では、食害者として用いたチャコウラナメクジとオカダンゴムシは共に、赤色の葉より緑色の葉を優先して食べることが分かった
これらのことから、トウカイコモウセンゴケは赤色、青色の波長の光や酸性条件下によってアントシアニンの合成を促進させ、葉を赤色にすることで、食害者から食べられにくくなり生存に有利になることが分かった。