| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S09-1 (Presentation in Symposium)
生態学にとって長期研究が必要な理由として挙げられるのは(例えばFranklin 1989、中静 1991)、(1)生態学的過程が長期にわたって進行すること、(2)時間的に稀な現象がしばしば生態系に決定的な影響を与えること、(3)競争など基本的な生態学の概念が長期観測による正当化を要することである。長期観測にはこのように生態学にとって基礎的な重要性があるとともに、環境問題への対応策を講じる上でも、長期観測の成果は最も強い根拠を与えるだろう。しかし、生態系の時間スケールはしばしば、研究者の一生や組織の存続期間をも超えるため、いったいどれだけ長期の観測であればどんな目的を達成できるのか、長期観測を担うことに十分な対価があるのか、直接的な長期観測を代替できる手段がないのか、継続観測の中断に対する処方箋はないのか等々、様々な疑問が湧いてくる。
長期観測に対する問題提起として、本発表では次の3つの話題を扱いたい。一番目に、1990年代に日本にどんな長期生態学研究のプロジェクトがあり、どんなプロジェクトが現在まで継続しているのかを紹介する。二番目に、直接的な長期観測の代替手段として、数理モデル、過去を復元する記録の利用、観測網や大面積観測など空間スケールを高めることによる時間変動の補完、の三つを取り上げ、それらの有用性と限界の指摘を試みる。三番目に、継続観測の中断に対する処方箋として、データペーパーを利用した再測可能性の確保や組織の新陳代謝の有用性を検討する。
以上の話題を通じて、長期研究に携わることが研究者や研究組織にとって本当に利点があるのかどうか、また、どうしたらその利点が大きくなるのか、を考えたい。