| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S09-6  (Presentation in Symposium)

環境DNA観測網を活用した自然共生社会の実現:ANEMONEの取り組み
The eDNA Monitoring Network for Establishing "Harmony with Nature": The Challenge of ANEMONE

*近藤倫生(東北大・生命科学)
*Michio KONDOH(Life Sciences, Tohoku Univ.)

人間の社会経済活動の拡大はとどまるところを知らない。地球温暖化や海洋酸性化に代表される地球環境変動が進行し、生物多様性の喪失や生態系機能低下が人類の幸福に及ぼす悪影響が心配されている。今後、生態系の現状やその変化を正確かつ迅速に把握し、将来予測や管理を行う上で、広域で実施される高頻度・多地点での生物多様性観測はますます重要な役割を果たすようになるだろう。
環境DNA技術は、水域を中心に高度な生物多様性観測の主要ツールとして大きく発展していくことが期待される。また、環境DNA観測のポテンシャルを最大限に発揮するためには、環境DNA分析に関わる要素技術、観測データ解析やモデリング技術等を深化させ続けることが大事だろう。
ANEMONE(All Nippon eDNA Monitoring Network)はこれらの科学的・社会的要請に応えるべく2019年に開始された、有志による環境DNA観測ネットワークである。水産研究・教育機構、環境DNA学会、JaLTER、JAMBIO等の協力のもと、全国の職業研究者と行政、市民ボランティアが協力し、統一された手法によって沿岸・湖沼・河川等を対象とした環境DNA観測(定量MiFish法)を実施している。2020年度には、全国45の沿岸サイトと23の河川・湖沼サイト、40組の市民ボランティアが観測に加わった。
本観測によって日本の豊かな生物相とその分布、変動の新知見が明らかになっていくだろう。またANEMONEはオープンデータの精神のもと運営されている。観測データは観測者に共有された後、6ヶ月で誰でも自由に利用できる形で公開されるため、生物多様性保全や生態系の持続的利用に貢献することが期待される。わが国では今後の人口減少も相まって、地域の財政悪化やそれに伴うインフラの縮小が予見されている。ANEMONEは今後、地域生態系を地域住民が科学者と連携しながら自ら観測し、利用し、その価値を明らかにし、保全することで支えられる、望ましい地域共生社会・自然共生社会を支えるツールとして発展していくことを期待している。


日本生態学会