| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S11-2 (Presentation in Symposium)
九州北西部、有明海沿岸域の平地には、広大な耕作地帯が広がるが、そこには網の目状に広がる農業用水路(通称、クリークあるいは掘割)がある。そして、そのクリーク網で、多数の絶滅危惧種を含む、豊かな淡水魚類の多様性をみることができる。塩生湿地を開墾し、また、干潟を干拓する歴史の中で、足りない水を確保するために、ため池のような枝堀に水を貯留し、また、幹線水路として機能する流れ堀で広域に水を送る仕組みを広げながら、クリーク網を発達させた。止水性の淡水魚、流水性の淡水魚がともに生息できるのは、役割の異なる水路が網の目状に発達することに起因している。また、この地域は、二毛作地帯であり、灌漑期、非灌漑期の水位変動が明瞭であり、幾つかの枝堀は、低水位時期には干出、高水位時期には浅い湿地となるため、湿地を産卵場、仔稚魚の成育場として利用する淡水魚も生息できる。
かつて、クリークの水は、農業用水だけでなく、生活用水、防火用水として利用され、クリークの泥は肥料として、また、そこに生息する水生生物は食糧資源として利用されてきたが、農業用水としての機能以外は失われつつある。しかしながら、最近、多発する豪雨を受けて、クリーク網の遊水機能に注目が集まりつつある。また、この地において、持続的な農業生産と生物多様性保全を両立させようとする動きも活発化し始めた。それらについても紹介したい。