| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
シンポジウム S11-3 (Presentation in Symposium)
生物多様性が高く多くの生態系サービスを提供するとされる氾濫原生態系は我が国にも多く存在する。しかしながら、その多くで人為的な環境変化に伴い氾濫原環境に依存した生物相の個体数の変化や生息範囲の縮小が報告されている。このような背景から、近年氾濫原生態系に注目した研究事例数は増加し、多くの地域で多用な分類群を対象に進展している。日本の氾濫原生態系研究における既往知見を整理することで次のような現状が見えてきた。魚類や底生動物などの水生動物に注目すると、ワンドやたまりなど堤外地に残された河道内氾濫原、旧河川や後背湿地として堤内地などにみられる河道外の氾濫原、そして水田水路が主な研究対象となっている。人為的な要因が少ない自然状態の氾濫原生態系の構造や機能を対象にした事例は稀有である。一方で、多くの事例は、生態系の連結性やかく乱規模・程度などの観点から人為的活動に関連付けて劣化した生態系の現状を報告、あるいは保全・再生への課題や糸口を提案している。前者は人口密集度が低い北海道の事例などが該当し、本州で実施されている事例はその多くが後者に該当する。対象となる生物種の群集構造や生活史特性などの基礎生物学的な知見に加えて、集団遺伝構造、そして物質循環や水文学的な環境条件など多角的な情報を集約した生態学的知見が集積しつつある。水位や冠水などの環境変動の程度や水域間の連続性など土木事業で操作可能な物理場の特性との関連性を明確にすることで、氾濫原生態系研究から得られる知見の生態系管理における実践的な有用性は著しく高まる。