| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W04-2  (Workshop)

水域生態系における脂肪酸濃度・炭素同位体比の利用
Fatty acids profiles and carbon isotopes in the aquatic ecosystems

*藤林恵(九大工学研究院)
*Megumu FUJIBAYASHI(Grad. Sch. Eng.)

食物網を解析する際、対象とする動物の脂肪酸組成に注目することがある。ある生物群に特有な脂肪酸、いわゆるマーカー脂肪酸が食物連鎖を介して高次の動物に移送・保存される特質に着目し、マーカー脂肪酸をトレーサーに見立てることで食物網を調べることができるためである。例えば富栄養湖沼でしばしば大発生する藍藻にはリノール酸やリノレン酸が多く含まれるが、これらの脂肪酸は珪藻や渦鞭毛藻には含まれず、動物も合成することはできない。そのため、動物からリノール酸やリノレン酸が検出されれば藍藻を直接あるいは間接的に餌利用していることが示される。また、含有率の大小でおおよその寄与も推測できる。
ただし、ある生物群に特有とされているマーカー脂肪酸も、厳密には様々な生物分類群に分布していることがある点に留意する必要がある。例えば、リノール酸やリノレン酸は藍藻のみならず緑藻や水草などにも含まれるため、緑藻や水草も潜在餌源として想定される系においては、リノール酸やリノレン酸の検出をもって、藍藻の餌利用を断定することはできない。このような場合、事前に顕微鏡観察やフィールド調査などで、緑藻や水草の不在を確認し、リノール酸やリノレン酸を藍藻のマーカーとして利用可能であるとする根拠を揃えておくことが重要である。加えて、近年では脂肪酸ごとの炭素安定同位体比を測定する技術が普及しつつある。そのため、同じマーカー脂肪酸をシェアしている餌源間で、マーカー脂肪酸の同位体比に差があるのであれば、ミキシングモデルによって各餌源の寄与を推定することが可能である。
本発表では、秋田県八郎湖や八郎湖水が注ぐ日本海沿岸域を事例として、食物網を脂肪酸および脂肪酸の炭素安定同位体比を利用して解析した結果を紹介する。また、今後脂肪酸分析の導入を検討している方の参考になるように、分析方法についても簡単に紹介する予定である。


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