| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
自由集会 W04-3 (Workshop)
野外に優占する根食昆虫はジェネラリストであり、生きた根だけでなく腐植物も摂食する幅広い食性を示す。そのような生物の食性解析手段の一つである脂肪酸分析が、根食昆虫の食性解析に適用できるか否かを、栽培環境で検討した。広葉樹の葉リターと材フレーク、ホソムギの根、ヘラオオバコの根を餌として、ドウガネブイブイ幼虫を育て、餌と幼虫の脂肪酸組成を分析した。餌の脂肪酸は、生息する微生物由来と考えられる脂肪酸により組成が異なった。幼虫の脂肪酸は餌の種類により異なり、dietary routingが生じたと考えられた。2種類の餌を混合して摂食させた幼虫の脂肪酸組成は、それぞれの餌を食べさせた幼虫の脂肪酸の中間を示した。それぞれの餌に含まれる脂肪酸の一部がマーカーとして使えると考えられたため、次に、温度上昇がホソムギと幼虫の相互作用をどのように変化させるか明らかにする実験を行なった。上述の葉リターを土壌表層に敷き、葉リター由来のマーカー脂肪酸を追跡すると、幼虫に含まれるマーカー脂肪酸濃度が温暖化条件で高い傾向が見られた。温度上昇は、土壌表層における幼虫の摂食を活発化させ、植物へのダメージを大きくすると考えられた。
さらに、脂肪酸分析を安定同位体分析と併用する形で、北八ヶ岳の森林で食物網を解析した。調査地では、1959年の伊勢湾台風により大規模な風倒が生じ、風倒後に倒木が搬出された場所(除去区)とされなかった場所(残置区)が存在する。この二つの調査区を比較し、倒木を起点とする食物連鎖が、森林生態系の食物網全体に及ぼす影響を考察した。残置区の地表性クモや地表近くの造網性クモでは、バクテリア由来の脂肪酸の割合が多く、倒木の量がバクテリア由来のエネルギーの流れ(bacterial channel)に影響すると考えられた。野外生態系においても、脂肪酸分析は大まかな傾向を捉えるのに有効だと考えられた。