| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W09-4  (Workshop)

菌種間競争のエージェントベースシミュレーション
Agent-based simulation for fungal interspecific competition

*三浦政司(鳥取大学), 深澤遊(東北大学)
*Masashi MIURA(Tottori Univ.), Yu FUKASAWA(Tohoku Univ.)

多数の要素の間に相互作用が生じることで個々の要素の性質や振る舞いからは直接説明することのできない全体的な性質や振る舞いが生まれることは「創発性」と呼ばれ、社会現象や生命現象の中に広く見出される。そのような創発性を伴う現象を理解・予測するためのアプローチとしてエージェントベースシミュレーションがある。これは、与えられたルールに基づいて自律的に行動や学習などを行う「エージェント」を基本的な単位とし、エージェント間およびエージェント-環境間の相互作用をモデル化することで、その全体的な振る舞いをコンピュータ上に再現するという手法である。材分解プロセスにおける木材腐朽菌の菌種間競争は創発的であり、個々の菌種の特性から競争の結果を予測することは難しい。逆に、競争の結果から各菌種の特性や戦略を直接導き出すことは困難であり、詳細な理解を得るためには、様々な実験結果を補完・統合するモデルの構築が必要となる。そこで本研究では、木材腐朽菌の菌種間競争をエージェントベースなアプローチによって記述し、競争を伴う群集構造形成や材分解プロセスを理解するためのシミュレーションモデルの構築に取り組んでいる。構築したモデルは菌糸体をエージェントとし、生長や二次代謝物質の生産、栄養の運搬などをエージェントの行動ルールとして記述した。また、二次代謝物質が他菌種の生長に及ぼす影響を相互作用として記述したり、温度環境による行動ルールの変化などをモデルに取り入れたりした。このようなモデルに基づいて、これまでに2種の種間競争を再現できるグラフィカルなシミュレータを開発した。さらに現在、3種間以上の競争を扱ったり、各種パラメータを連続的に変化させながら多数回のシミュレーションケースを実行したりできるシミュレータの開発に取り組んでいる。今回の発表では、構築したモデルについて紹介するとともに、シミュレータの動作実演を行う。


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