| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
自由集会 W16-1 (Workshop)
仙台湾の汀線から砂浜,海岸林を含む領域において植生調査を実施し,東日本大震災時(2011年3月)に生じた津波撹乱後9年目(2020年)の植生の現況を明らかにするとともに,津波直後からの自然回復及び人為的影響による植生変化の状況について解析を行った。植生変化の分析は,調査地の津波撹乱以前の植生の状態を基に汀線から内陸に向かって区分した,汀線から堤防までの「砂浜植生域」,堤防より内陸側で主に樹高の低いクロマツが生育する「低木林域」,さらに内陸側で樹高15m以上の高木が見られる「高木林域」の3つの植生ゾーンごとの,2011年及び2013年の植生との比較に基づいた。また,各植生ゾーンにおいて,盛土植栽などの復旧事業により改変された場所を「人為区」とし,人為的影響について解析した。
津波後9年目の植生は,Jaccard指数による類似度を基にしたNMDSによる序列化の結果,おおよそ植生ゾーンごとに区分され,砂浜植生域ではコウボウムギなどの砂浜植物が,低木林域ではコウボウシバ,ハマアオスゲが,高木林域ではカスミザクラなどの木本類が特徴的に群落を構成していた。津波直後からの変化を見ると,砂浜植生域では2011年及び2013年の群落組成と明瞭な違いはないものの,津波直後にはほとんど確認できなかったハマニガナが優勢な群落に変化していた。低木林域では,2011年から2013年,2020年にかけて群落組成に違いが見られ,特に一年草のマルバアカザなどが見られなくなった。高木林域においても,エノコログサ,ヨウシュヤマゴボウなどの陽地性の植物が見られなくなった。一方,人為区では,植生ゾーンの違いに関係なく,オオアレチノギクなどの路傍空地雑草が多く出現する群落に集約され,自然回復による植生の変化とは明らかに異なるものであった。
本研究はJSPS科研費JP20K12260の助成を受けたものである。