| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W18-4  (Workshop)

環境DNAで読み解く河川と沿岸域の魚類多様性とその生態
The approach to the fish diversity and its ecology in rivers and coastal areas using environmental DNA

*村上弘章(京都大学)
*Hiroaki MURAKAMI(Kyoto Univ.)

環境DNA (eDNA)は、生物から環境中に放出されたDNAの総称である。近年、eDNAを検出することで、生物の在不在や資源量の推定が試みられている。特にMiFishプライマーを用いたeDNAメタバーコーディング手法では、低労力かつ短期間で魚類相についての網羅的なデータが得られる。eDNAは、水を汲むだけというサンプリングの簡便さから、多地点・複数回のモニタリングに特に適している。しかしながら、こうした複数回のモニタリングを継続的に行うには、研究者だけの調査では限界があり、シチズンサイエンスの導入がこの分野の発展に大きく寄与すると考えられる。そこで、eDNAを社会実装するために、高知県立 嶺北高校の生徒の皆さんと協力して、早明浦ダム、吉野川とその支流の6地点において、eDNAを用いた魚類相調査を行う事にした。採水調査は2020年8月5、6日に行い、各地点で試水1 Lをステリベクスにろ過した。その後、生徒が主体となって、DNA抽出を行い、eDNAメタバーコーディング解析を外注した。その結果、早明浦ダムからは外来種のブルーギル、ダム内と吉野川からオオクチバスが検出された。一方で、吉野川本流に合流する支流からは上記の外来種は検出されず、アカザやニホンウナギといった希少種が検出された。また、オイカワやハスといった国内外来種も検出され、過去にそれらが侵入した痕跡がみつかった。ダム内の検出種数が最も少なく多様性が低い一方、吉野川本流とその支流は検出種数が多く、特に支流の魚種組成は本流のそれと異なった。さらに、本研究成果を生徒が地元の役場・漁業関係者らに発表し、これ以上の外来種の侵入を防ぎ、魚類多様性を保全するための方法を共に検討できた。よって今後、eDNAを用いたシチズンサイエンスを全国規模で展開するための足がかりを構築できたと考えられる。


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