| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


第19回 日本生態学会賞/The 19th ESJ Award

これからやりたいこと-生態学5.0
My new challenge towards ecology 5.0

矢原 徹一(九州オープンユニバーシティ)
Tetsukazu Yahara (Kyushu Open University)

 大学生時代から経験した生態学の歴史(自分史)は、以下の4段階に区分できる。
 生態学1.0:大学生のとき、オダム「生態学の基礎」で生態系生態学を、伊藤嘉昭「動物生態学(上)(下)」で個体群生態学を学んだ。日本が世界に誇る業績として、Monsi & Saeki (1953) 論文の翻訳、森下正明さんの学位論文(ヒメアメンボ)などを読んだ。当時は生態学とは接点がなかった集団遺伝学を、木村資生「集団遺伝学概論」で学んだ。
 生態学2.0:ピアンカ「進化生態学」とMaynard Smith”The Evolution of Sex”を読んで、進化生態学を学んだ。植物分類学の研究室で、生態学に興味を持ちつつ、進化の研究を志した。巌佐庸「生物の適応戦略」(1981)を読んで最適化モデルを学んだ。その後、遺伝マーカーを活用した集団遺伝学と繁殖生態学の統合を試み、『花の性 その進化を探る』を書いた。
 生態学3.0:植物レッドデータブックを編集する仕事にとりくみ、鷲谷いずみさんと『保全生態学入門』を書き、保全生態学という分野を開拓することに貢献した。一方で、次第に利用できるようになってきたDNA情報を使って、分子生態学を開拓しようとした。
 生態学4.0:生物多様性国際研究プログラムDIVERSITAS科学委員会への参加をきっかけに、GEOBON、IPBES、Future Earthという国際事業の創設に次々に関わった。また、CBD COP10の準備に対応し、APBONを設立し、2011年から環境研究総合推進費S9の代表者をつとめた。国際マメ科植物観測計画・国際遺伝子多様性観測計画を提唱した。東南アジア9か国153地点で植物多様性調査を行い、4万点以上のDNAサンプルと植物標本を集め、東北大の陶山佳久さんが開発されたMIG-seq法を使って、東南アジアに1000種以上の樹木の新種があることを示した。またIPBES概念文書に自然共生社会についての独自の視点を書き込み、IPBESアジア・太平洋地域アセス報告書にも貢献した。
 生態学5.0:「持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム」で7年間かけて開拓し、Decision Science for Future Earth (https://www.springer.com/gp/book/9789811586316)に初期成果をまとめたDecision Science(意思決定科学)をさらに発展させたい。Decision Scienceのアイデアは、日本生態学会生態系管理専門委員会で2005年にまとめた「自然再生事業指針」にルーツがある。この指針をまとめる過程で「合意形成の科学」の必要性を認識した。この研究分野を人間社会生態学に育てたい。また、MIG-seq法を使った植物多様性解析の仕事を発展させ、ゲノム生態学の発展に貢献したい。


日本生態学会