| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


第25回 日本生態学会宮地賞/The 25th Miyadi Award

生態系管理に寄与することを目指した社会科学(ヒューマンディメンション)研究
Social science (human dimensions) research for enhancing ecosystem management

桜井 良(立命館大学 政策科学部)
Ryo Sakurai(College of Policy Science, Ritsumeikan University)

生態系管理、特に野生動物管理において、社会科学の手法を用いて、行政やコミュニティにおけるより良い意思決定を目指す実践科学がHuman Dimensions of Wildlife Management(野生動物管理における社会的側面:以下、ヒューマンディメンション)である。1970年代より米国で発展したヒューマンディメンションは、現在では米国の多くの大学で専門的に学べるようになり、関連する国際誌や国際学会も定期的に発行・開催されるなど、北米を中心に学問として根付いたともいわれている。
 演者はヒューマンディメンションの考え方や手法を用い、生態系管理に寄与することを目指した社会科学研究を続けてきた。それらは兵庫県や栃木県における地域住民のツキノワグマやイノシシへの許容力(Wildlife Acceptance Capacity)の評価や、野生動物に対するリスク認知(risk perception)や野生動物管理における行政への信頼度(social trust)などの調査である。一連の研究より、ヒューマンディメンションの手法や理論が日本の現状を理解するうえでも有効であることが示された。また都市部における調査では、住民の地域への愛着やコミュニティへの関与度(近所付き合いなど)が緑化活動への参加意欲に影響を及ぼすことなどが明らかになった。
 では、人々の地域への愛着や自然に対する保全意欲はどのように育まれ、自然環境の保全に積極的に関与するコミュニティはどのように形成されるのか。演者は、現在は瀬戸内海の沿岸域に位置する中学校において、地元の漁師と生徒が連携して行う海洋学習プログラムの評価研究をしている。一連の研究より、子供たちが中学校に入学し、三年間地元の海で海洋学習を受ける中で、どのように地域への思いが芽生え、地元の海を保全することへの意欲が育まれるのか、更に卒業後、高校生になってからも、それらの思いがどのように継続してゆくのかが明らかになった。この中学校の事例は、過疎化が進む地域において、地元を思い続け、地域に何らかの形で関与し続けようとする人材(関係人口)の育成がどのように可能であるかを示している。
 講演の最後には、生態系管理をテーマとした生態学者と社会科学者(そしてそれ以外の分野の研究者)との新たなる協働の可能性について、ロジックモデルなどのツールを用いた研究の成果を紹介する。
 試行錯誤の日々が続くが、社会科学者として少しでも生態系のより良い管理に寄与できるように、日々精進していく所存である。


日本生態学会