| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


第25回 日本生態学会宮地賞/The 25th Miyadi Award

生態学における観測・推測・予測と統計モデリング
Statistical modeling for ecological observation, inference, and prediction

深谷 肇一(国立環境研究所)
Keiichi Fukaya(National Institute for Environmental Studies)

種の分布や個体数量、およびこれらを規定する要因や過程を明らかにすることは、生態学研究の主要な関心の1つである。しかし実際には、個体の検出の不完全性や不均一性など、観測に関する技術的な問題が定量的な理解を妨げる場合がある。

この問題に対する現代的なアプローチとして、観測過程を明示的に考慮した統計モデリングがある。分布や個体数量など、生態学的に関心のある変数を潜在変数とみなし、これらの変数の変動を規定する生態過程に加えて、観測過程も同時にモデル化する。こうした着想に基づき構築された多様な統計モデルが、近年、観測誤差に頑健な推論の土台として広く利用されるようになった。

こうした展開は、野外での生態観測に立脚する生態学に新たな機会をもたらすだろうか。もちろん、生態学では観測の過程それ自体に直接の関心はない。しかし、これをあえてモデル化の対象とすることで、直接的な観測が困難な生態状態変数の予測が可能となり、さらには種類の異なるデータを組み合わせた総合的な推論が可能となるなど、生態学における統計推測の範囲は大きく広がりつつある。モデリング手法の発展により、個体群や群集の構造と動態に関する推論において蓄積された貴重なモニタリングデータや自然史データがより重要な役割を果たすようになり、また、新興の観測手法や市民科学などにより得られる大規模データから生物多様性の状態がより詳細に把握されるようになるだろう。

本講演では、統計モデリングを用いて私がこれまで取り組んできた個体群研究や群集研究の例を紹介するとともに、生態学において統計モデリングが果たし得る役割について今後の展望を交えて考察したい。


日本生態学会