| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
第25回 日本生態学会宮地賞/The 25th Miyadi Award
北東・中央アジアの乾燥地域では、降水量が少なく、かつ蒸発散量が多く、土壌水分が少ないために、樹木に乏しい、イネ科の草本植物を中心とした大草原が広がっている。乾燥地域に住む人々の多くは、家畜生産や作物生産の場として、生態系を利用している。しかし同時に、人々は過放牧や過耕作などを主な起因とする砂漠化、気温上昇や干ばつの増加といった気候変動の問題に直面している。
私が研究を始めた2004年頃のモンゴル草原においても、市場経済の浸透によって、家畜の頭数が顕著な増加傾向にあり、放牧による生態系への影響が懸念されていた。そこでまず、放牧によって生態系がどう変容するか、という問いに答える研究を進めた。研究を進めていく中で、乾燥地の環境条件、とくに降水量の変動性の高さをフィールドで実感し、気候変動による生態系への影響評価を行う必要性を強く認識したことから、野外実験や長期データ解析によって、その評価を並行して行ってきた。さらに、この間、草原・草地を対象とした⽣物多様性の操作実験による生物多様性と生態系機能の関係の理解をベースに、生態系における生物多様性の役割を解明する研究分野が発展していった。私は、研究開始から一貫して、砂漠化や気候変動による生態系への脅威に対応する鍵として、生物多様性に着目した実証研究を進めてきた。
これまでの研究は、俯瞰すると、モンゴル草原における砂漠化、気候変動、生物多様性に関する問題解決への一端に寄与するものであったと考えられる。これらの問題は相互に関連するものの、それぞれの問題に対する研究や視点は独立して進展してきた傾向がある。本講演では、私がこれまでに行った、これらの問題間の関係性をふまえた研究の試みと、その関係性の複雑性ゆえに解決できていない課題をいくつか紹介し、今後の展望を述べる。本講演をきっかけに、乾燥地研究を志す仲間が増えることを期待します。