| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


第9回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 9th Suzuki Award

生物多様性科学におけるパターン
Patterns in biodiversity science

中臺 亮介(東京大学 農学生命科学研究科 / 東フィンランド大学 環境・生物科学研究科)
Ryosuke Nakadai(Department of Ecosystem Studies, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo, Japan / Department of Environmental and Biological Sciences, Faculty of Science and Forestry, University of Eastern Finland, Finland)

 地球上には多種多様な生物が存在し、日夜どこかでそれらが互いに影響を与え合っている。このような莫大かつ極めて複雑な生物多様性や相互作用のすべてを目にし理解することは、一人の人間の一生を費やしてもおそらく叶わないことである。世界各国の研究者がそれぞれの場所で生物多様性のパターンを記述し、その知識を共有することは、生物多様性を理解するための第一歩であると考える。分類学者が新たな種を記載するように、生物多様性科学の研究者らはそのパターンを記述する。
 パターンの研究は、記述すればすぐさま科学的な理論として成立できるようなものでなく、推量の多い研究のあり方はしばしば批判の対象となる。しかしながら、個々のパターンの記述が、その後に続く実験や数理モデルをベースとした研究において、理論を整えるための道標となりうる。私にとってパターンの研究は、足跡のない雪原を一番に歩くような爽快感を与えてくれる一方、時に藪漕ぎのような先の見えない大変さを感じさせてくれる。
 また、一つのデータに対しても、そこに何を見出すかは十人十色で様々な解釈がなされ、過去に取られたデータにも多くの研究が行われる。現在も生物多様性を捉えるための新たな視点(手法や指標など)が開発されており、それぞれの視点により見えてくるものは大きく異なる。データを見る人間の背景が多様であるほど、新しいパターンやそれらに対する解釈が見つかるだろう。
 本講演では私のこれまでの研究について紹介しながら、生物多様性のパターン研究の魅力を伝えたい。


日本生態学会