| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-04 (Oral presentation)
マングローブ林は熱帯・亜熱帯域と生育域が限られているにも関わらず,全球規模でマングローブ土壌には炭素が1000Tg貯留されていると推計されており,気候変動の緩和に寄与する大気中のCO2の吸収源として期待されている.しかしながら,潮位変動に伴いマングローブ林から隣接海域へは大量の無機炭素が流出していることが知られているが,大潮-小潮間の潮位振幅の違いに起因する無機炭素流出量の差や,各潮位位相での無機炭素生成過程の違いに関しては十分に検討が進んでいるとは言い難い.
本研究では,2021年夏季に石垣島吹通川マングローブ林前面にて大潮から小潮間にかけて現地観測を行い,係留計を用いた炭酸系パラメータと水質の連続観測と,マングローブ前面での24時間採水を複数回実施することで,インド太平洋地域の北限に位置する我が国のマングローブ林での炭素循環過程の解明を試みた.水中CO2分圧は大潮期に最大約4600µatm,中潮期に約5200µatm,小潮期に約5900µatmとなり,各期間において差が見られた.全無機炭素DIC,全アルカリ度TAに関しては,上げ潮時にはTAがDICよりも250µmol/kg程度高い海水が流入するが,下げ潮前半にDICとTAの値は等しくなり,下げ潮後半時にはDIC, TAはほぼ同じ傾きで増加していた.溶存有機炭素DOCに関しても小潮時にマングローブ系外への流出が多く確認されたが,降雨後の大潮時にはさらに多くのDOCが流出していた.
流入淡水で正規化したDIC, TAの関係から下げ潮後半時には間隙水を通じて嫌気的分解起源のDIC, TAが流出しており,気液平衡時のDICからのDIC増減量と見かけの酸素消費量の関係から,小潮時には好気的分解起源の無機炭素が多く流出していることが示唆された.また,土壌表面冠水時間と各潮汐の最大CO2分圧の関係から,小潮時は潮位の非対称性により間隙水水頭差が最大に達するまでの土壌表面冠水時間が増加し,土壌表面での好気的分解の差が大潮-小潮間の最大水中CO2分圧に影響を与えていることが示唆された.