| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-02 (Oral presentation)
藻類は食糧や機能性物質の原料など、幅広い利用価値をもつ海洋資源である。藻類とそこに定着している細菌は、栄養素の交換や抗菌作用など、幅広い代謝機能にわたり相互に作用し合っているため、このような定着細菌の機能を解明することは、有用な藻類を養殖するうえで非常に重要である。しかし、これらの定着細菌の報告は単細胞藻類を対象としたものに偏っており、食品として親しまれている海苔の原材料である紅藻のスサビノリも、商業的な利用価値が高いにもかかわらず、その定着細菌との関係性は未だ不明な点が多い。そこで、本研究室で長年に渡り保管されており、その培養液中には細菌が集積されていることが予想されるスサビノリ糸状体34株のメタゲノム解析を行うことによって、ノリに定着している細菌の細菌種と代謝機能を推定した。
34株のスサビノリ糸状体から得られた配列情報をSqueezeMeta(Tamames and Puente-Sánchez 2019)を用いて解析した結果、養殖場のノリ葉状体からも検出されているFlavobacteriia、AlphaproteobacteriaおよびGammaproteobacteriaが全てのサンプルから検出されたが、その優占度はサンプルによって大きく変化していた。また、スサビノリの必須ビタミンと考えられているビタミンB12や、藻体の生長を促す植物ホルモンの一種であるインドール酢酸の合成遺伝子が、全てのサンプルから検出された。特に、陸上植物におけるインドール酢酸合成細菌は、その合成経路から共生菌または寄生菌に大別されるが、スサビノリ糸状体由来の細菌の多くは、そのどちらの合成経路とも異なる経路をもつことが推測された。このように、ノリの定着細菌はさまざまな代謝機能を介して宿主に有用な作用をもつことが示唆されたが、それらの働きは常に同じ細菌種が担っているわけではなく、柔軟に変化していることが考えられた。