| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-03 (Oral presentation)
有明海は、国内最大級の干満差を有し、堆積物の巻き上がりの大きい海域である。夏季には鉛直的に水温や塩分の勾配が生じることで水柱内に異なる水質環境が混在し、降雨などに伴い短期的に変動する特徴がある。これらの多様で動的な環境勾配に応じて細菌叢も変化していることが予想される。本研究では、夏季、有明海における水柱および底質表層の細菌叢の時空間変化とそれらに関連する環境要因を特定するために、有明海湾奥部の平均水深13mの海域に調査定点を設け、2018年7月13日~2018年8月3日にかけて1週間置きに水柱の異なる水深帯(海水表面、水深2m、海底直上2m、海底直上0.5m)および底質表層(堆積物表面〜0.5cm層)の環境並びに細菌叢を調べる現地調査を実施した。環境要因は、水柱では水温、塩分、Chl.a、溶存酸素濃度、濁度、浮遊粒子の有機炭素量及び窒素量(PN)を、底質表層では粒度組成、酸揮発性硫化物量、酸化還元電位(ORP)、全有機炭素含量、全窒素含量を測定した。細菌叢は16S V4-V5領域を対象に解析した。調査期間中の水柱および底質表層における操作的分類単位(OTU)数は平均で169存在し、水柱にも底質表層にも共通して出現するOTUが平均で71.1%に達した。一方、OTUに基づく細菌叢の相対組成は水柱と堆積物表層で明瞭に異なっていた。水柱における細菌叢の時空間変化は塩分、濁度、PNなどの環境要因と対応関係が見られた一方で、底質表層ではORPのみに対応して細菌叢が変化し、両者の変化するタイミングも異なった。本研究により、有明海湾奥部では水柱および底質表層に共通して出現するOTUの割合が他海域の報告より大きいことが明らかになり、堆積物の巻き上がりが大きい有明海の特徴であることが考えられた。一方で、同海域における水柱と底質表層では、細菌叢の相対組成や群集組成の変化に関連する環境要因が違ったことから、本海域の細菌叢の変化に伴う物質循環は浮遊系と底生系では異なる動態があることが示唆された。