| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-04 (Oral presentation)
沿岸海洋は、水温や塩分、溶存酸素(DO)など様々な環境要因の変動が激しい海洋環境であり、多様な微生物が生息している。しかし、実際の海洋は、複雑に環境要因が変化するため、それぞれの環境変化が細菌群集の変化に与える影響を評価するのは困難である。本研究では、海洋問題の一つである海の貧酸素化が微生物組成や微生物を介した物質循環に与える影響を、DOを制御出来る室内実験系で現場の泥を培養することで評価した。2020年夏季に採取した有明海湾奥部の底泥表層0.5 cmを、1)短期:1日、2)中期:12日、3)長期:24日の異なる期間、貧酸素環境DO < 0.8mg L–1で室内培養した。併せて4)空気曝気した対照区間も設けた。それぞれの系での培養後、16S V4-V5領域を対象に微生物群集組成を明らかにし、併せて酸揮発硫化物量および栄養塩濃度を測定することで、微生物組成変化と物質循環過程の関わりを議論した。短期の貧酸素曝露でも、すぐに微生物群集組成は、空気曝気対照区に比べ、大きく変化した。短期曝露では、窒素栄養塩はアンモニア態であったが、中期曝露までに硝化過程が進行し、ほとんどが硝酸・亜硝酸態となった。一方、酸揮発性硫化物は、貧酸素曝露期間を経るにしたがって減少した。貧酸素環境下では、硫酸還元による硫化水素が発生するため、硫化物が泥から放出されたことが考えられた。実際に、硫酸還元菌Desulfosarcinaceaeの相対的生物量は、培養期間が長期化するほど増加した。すなわち、数日から2週間程度の貧酸素では、有機物分解に端を発した硝化過程が活発に進行したのに対し、1か月近くの長期貧酸素では、硝化過程は弱化し、硫化水素発生が活発に起きたことが考えられた。海洋の貧酸素長期化は、海泥から生物毒性をもつ硫化水素の放出増加を導くことで、底生生物の斃死など、沿岸生態系サービスを大きく損なう可能性がある。