| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-05 (Oral presentation)
水域に生息する菌類は水生菌類と呼ばれ、主にツボカビや子嚢菌、担子菌が含まれる。水生菌類はプランクトンへの寄生や有機物の分解を通じ、水域の物質循環において重要な役割を果たしている。水生菌類の群集構造には、菌類の分散に関わる湖間の距離などの空間要因と、定着に関わる湖内の水質やプランクトン組成など環境要因が影響することが予想される。しかし、両者の相対的重要性や最も影響する要因は不明である。そこで本研究では日本全国の50ダム湖における菌類組成を比較することで、菌類群集構造の決定要因における空間要因と環境要因の相対的重要性を評価することを目的とした。
50ダム湖の沖表層から2020年の9から10月にかけて採水し、DNAメタバーコーディング解析により菌類群集組成を比較した。同時に、植物プランクトンに寄生する種類(ツボカビ)を把握するために顕微鏡観察、Single spore PCR法及び単離培養法を行った。
その結果、ツボカビが最も優占する菌類であった。顕微鏡観察の結果、珪藻に寄生するツボカビが多く出現した。Single spore PCR法及び単離培養により得られた珪藻に寄生するツボカビのDNA塩基配列とDNAメタバーコーディングで検出されたASVを照合した結果、多くのASVが珪藻寄生性ツボカビであった。一部のダム湖では子嚢菌や担子菌が優占した。子嚢菌や担子菌は陸上植物の寄生菌や内生菌と近縁であり、ダム湖集水域の植生を反映している可能性がある。菌類群集構造と各ダム湖の空間要因や湖内要因(水質、植物プランクトン)の影響を分散分割により検討した結果、菌類全体とツボカビ群集とでは空間要因と湖内要因の相対的重要性が異なる可能性が浮かび上がった。陸生菌類を含む菌類全体では集水域植生などの空間要因が影響する一方、水域に生息するプランクトン寄生性ツボカビは植物プランクトン組成からの影響が大きいためと考えられた。