| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-03  (Oral presentation)

防潮堤による砂浜生態系における栄養循環への影響
The impact of the tide embarkment to nutrient cycle on sandy beach ecosystem

*大越陽, 松島肇, 根岸淳二郎, 大原昌宏(北海道大学)
*Hinata OKOSHI, Hajime MATSUSHIMA, Junjiro NEGISHI, Masahiro OHARA(Hokkaido Univ.)

東日本大震災からの復旧・復興事業により宮城県仙台海岸には防潮堤が建設され, それによる海浜生態系への影響が懸念される。本研究では海からの栄養流入に着目した。海浜では海から漂着する海藻等を昆虫やヨコエビ等の無脊椎動物が栄養源として利用している。したがって防潮堤建設に伴う環境の変化が海からの栄養流入を阻害しているとすれば, それを基盤とする無脊椎動物群集にも影響が及ぶことが考えられる。そこで本研究では, 海浜に生息する無脊椎動物の栄養源に対して防潮堤が与える影響を検証することを目的とした。調査対象地は宮城県仙台市の砂浜海岸とし, 砂浜上に防潮堤の無い蒲生地区と防潮堤のある荒浜地区からそれぞれ2ヶ所ずつを選定した。各調査地にて, 汀線と垂直に20 m間隔でピットフォールトラップを設置し無脊椎動物を採集した。また海陸それぞれの栄養源として, 漂着海藻と陸生植物を採集した。採集は2020年の8月下旬と2021年の9月中旬に行った。防潮堤の両側で確認されたオオハサミムシ(Labidura riparia japonica)と栄養源について安定同位体比の測定を行い, 各個体に対する海から流入した栄養の寄与率(以下, 寄与率)を推定した。結果, 海浜上に防潮堤の無い蒲生地区では海からの距離に応じて寄与率が減少していた。この結果を基に海からの距離を説明変数, 寄与率を応答変数とした一般化線形モデルを作成した。このモデルと防潮堤のある荒浜地区における寄与率を比較したところ, 防潮堤陸側でも寄与率は概ねモデルで予測される通りであった。ただし, 海岸林の造成地においては予測より寄与率が高くなった。このことから, 防潮堤陸側においても元の海浜環境を保全することで生態系への影響を抑えることが可能だと考えられる。しかし, 波や風のような海からの環境圧が無くなることにより海浜環境を維持できなくなる可能性も考えられるため, 今後も継続的な調査が必要だと言える。


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