| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-02 (Oral presentation)
表層崩壊は山岳部における主要な自然撹乱であり、豪雨や地震によって引き起こされる。突発的な豪雨の発生回数の増加が予想される気候変動下では表層崩壊の頻度や規模の増大が懸念される。しかし、冷温帯地域において表層崩壊後に長期的に炭素蓄積や種組成がどのように変化していくかは未解明である。本研究では、北海道胆振・日高地方の過去の表層崩壊地を対象として、冷温帯地域における表層崩壊後の炭素蓄積量・種組成の長期的変化について評価した。1947年、1981年、2003年、2018年に表層崩壊が発生した箇所を各5斜面、Referenceとして約100年以上撹乱を受けていない斜面を3斜面選定した。各斜面を滑落斜面上部(Initiation)、下部(Transport)、崩積土堆積部(Deposition)の3ゾーンに分け、それぞれで15×15mのプロットを設置し毎木、枯死木調査を行なった。また各プロット内の4箇所で斜度、土壌含水率、堆積有機物層の厚さを測定した。生立木炭素蓄積量については表層崩壊発生年とゾーンで有意差が見られた(Reference > 1947 > 1981 >2003 ≒ 2018; Initiation < Transport ≒ Deposition)。表層崩壊からの経過年数が大きいほど生立木炭素蓄積量が大きくなったものの、74年では老齢林の炭素蓄積量までは回復できていなかった。特にInitiationゾーンは崩壊斜面内でも急傾斜で土壌が不安定なため、生立木炭素蓄積の回復が遅かったと考えられる。枯死木炭素蓄積量は表層崩壊直後と老齢林で大きい傾向が見られたが、地上部炭素蓄積量への影響は極めて小さかった。種組成は表層崩壊発生年でのみ有意差が見られた。また、いずれの環境要因も種組成の説明要因として有意ではなかった。経過年数が大きくなるにつれてシナノキやエゾイタヤなどの遷移後期種が優占する種組成へと変化したが、74年経過しても老齢林の種組成とは異なっていた。斜面上の環境よりも経過年数の方が相対的に大きな影響があると考えられる。