| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-03 (Oral presentation)
地理的な植生分布は温度条件と関係しているため,気候変動は標高傾度にそった植生分布に影響するだろう.しかし,標高傾度にそった種の分布が,どのように生物的,非生物的な要因によって決められているかは明らかではない.標高傾度にそった樹木種の分布がどのようなメカニズムで決まっているのかを明らかにするためには,標高傾度にそった長期間のプロットセンサスが不可欠である.中部山岳の亜高山帯では,高標高で耐陰性の高いオオシラビソ (Abies mariesii),低標高で耐陰性のやや低いシラビソ (A. veitchii) が優占している.この研究では,これらの同属2種がなぜ異なる標高で優占しているのかを,競争と攪乱の観点から明らかにするために,3標高において13年間,2種の個体群動態を調べた.その結果,それぞれの種の現在の成長率と生存率はもっとも優占している標高で,必ずしも高いわけではなかった.小規模攪乱が頻発する高標高では,オオシラビソの新規加入は個体間競争に関わらず,高い一方,シラビソの新規加入は個体間競争によって大きく減少していた.低標高では,シラビソは大攪乱のあとに,その高い成長率によってオオシラビソよりも先に優占していたことが,年輪解析から示された.したがって,高標高ではオオシラビソはその高い新規加入によりシラビソよりも競争力が高く,一方,大攪乱後の低標高ではシラビソはその高い成長率によりオオシラビソよりも競争力が高かった.標高傾度にそった2種の分布は,競争と攪乱と関係した個体群動態の変化によって決められていることが示唆された.標高傾度にそった森林動態の長期観察は気候変動の植生分布に対する影響を予測するうえで有益であろう.