| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-02 (Oral presentation)
日本の落葉広葉樹林ではササ類が優占することが多いが、シカ食害の影響を受けて各地でササの衰退が進んでいる。ササが衰退した林床は不嗜好性植物を中心とした単純な植生に変化することがあるが、多くは植生が劇的に変化してから記録されており、植生変化を衰退初期から記録した例は少ない。富士山南麓の落葉広葉樹林帯では、林床で優占していたスズタケ(Sasa borealis)が2009年から急速に衰退した。本研究では、スズタケ衰退直後の2010年に設置した固定調査区を再調査することで、林床植生の変化を明らかにすることを目的とした。
130m×40mの固定調査区において優占型による林床植生図を作成するとともに、2m×2mのコドラートを54個配置して植生調査を行った。2010年当初、調査区中央部のカラマツ植林地には不嗜好性植物のマルバダケブキ、ヤマカモジグサが優占しており、これらがスズタケ衰退後の広葉樹林の林床に拡大することを予想したが、10年が経過しても不嗜好性植物の拡大は確認されなかった。スズタケ衰退後の林床は、スコリア質の斜面ではハコネイトスゲ、溶岩流状ではイワネコノメソウが優占するタイプが広がっていた。不嗜好植物が拡大しなかった要因として、極端に高密度なシカによって不嗜好性植物にも採食圧がかかったこと、広葉樹林では林冠ギャップが少なく光が不足していたこと、斜面地では表層の浸食が進み大型の植物が定着しにくかったこと、が考えられた。また、植生調査の結果、スズタケ衰退後の2013年には種数の増加が確認されたが、2021年の調査では減少し、林床タイプ間での種組成の差が小さくなっていた。
以上から、高い採食圧がかかり続ける場所では、ササ類の衰退後に必ずしも不嗜好性植物の拡大が起こるわけではなく、種組成の均質化をともないつつ、採食耐性の強い小型の草本が優占する林床植生に転換することがわかった。