| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) D04-04 (Oral presentation)
東・東南アジアでは、各気候帯で展葉・開花・結実フェノロジーが観察されてきたが、季節性に乏しい熱帯雨林のフェノロジーと、季節性がある熱帯季節林や温帯林のフェノロジーの生態学的な比較検討は不十分だった。そこで本研究では、東・東南アジアの展葉・開花・結実フェノロジーの体系的な理解を目的として、①被子植物の祖先的な分類群が生育する熱帯山地林の展葉・開花・結実フェノロジーの観察、②東・東南アジア9地点における展葉・開花・結実フェノロジーパターンの比較を行った。①のために、乾季と雨季があるベトナムのビドゥップヌイバ国立公園の熱帯山地林(標高1660–1920 m)において5調査区を設置し、各調査区の個体数上位の計91種(500個体)で、展葉・開花・結実の有無を2018年6月~2021年1月の間に3ヶ月毎に記録した(91種についてはMIG-seq法などによる分子系統解析を行いタイプ標本と比較して種を同定した)。その結果、91種全てが雨季始めに展葉したが、開花の明瞭な季節的ピークは見られなかった。観察期間中に開花した種は64種であり、数年に一度咲く種があると考えられる。②のために、緯度や気候条件の異なる温帯林2地点・亜熱帯林2地点・熱帯季節林1地点・熱帯雨林2地点・熱帯山地林2地点における展葉・開花・結実フェノロジーデータを用いて、クラスター分析を行った。その結果、熱帯山地林2地点(マレーシア・キナバルとベトナム・ビドゥップヌイバ)の間で気候(日長・気温・雨量)のパターンは異なるがフェノロジーパターンは類似しており、森林のフェノロジーに影響する他の気候要因の存在が示唆された。①②の結果から、熱帯山地林を祖先的状態と仮定することで、一方では季節性のない熱帯雨林のフェノロジーが、他方では季節性がより顕著な熱帯季節林が生じ、後者から亜熱帯林・温帯林のフェノロジーが多様化する過程において、どのようなフェノロジー形質の変化が生じたかを推論できた。