| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-01 (Oral presentation)
幼木の近隣植生(以下近隣植生)は、次世代の森林を形成する幼木の成長や生存に影響を及ぼし、森林全体の構造に影響を与えうる。近隣植生の影響は幼木の成長を促す「促進効果」と成長を阻害・抑制する「競争効果」が知られており、幼木の生長や生存への影響は、これら両効果の多寡によって決定されると考えられる。また、両効果は異なる生理特性を持つ幼木樹種によっても変化する可能性がある。本研究では、幼木周囲の近隣植生が幼木の生長に及ぼす影響を促進効果と競争効果に分離した。さらにその両効果が樹種ごとに異なるかを検証することで、周囲の近隣植生が幼木の生長を介して森林形成に及ぼす影響を評価することを目的とした。
北海道の天塩研究林野外実験区にて在来種のミズナラとアカエゾマツの幼木単位の光合成速度、その光合成速度を決定する要素である同化面積および面積あたりのクロロフィル量を測定した。さらに、近隣植生が幼木周囲の環境要因に与える影響と幼木樹種ごとの応答の相違に着目し、幼木が近隣植生から受ける影響のメカニズムと近隣植生の森林形成における役割についての検討を行った。
その結果、暗条件での生長に適したミズナラは、近隣植生の被覆による光環境に強く反応し、クロロフィル量と同化面積には、それぞれ促進効果と競争効果が示された。一方で、アカエゾマツは、近隣植生との地下部の競争に対して強く反応し、クロロフィル量には競争効果が確認された。また、近隣植生はミズナラの光合成速度に影響しなかったのに対して、アカエゾマツの光合成速度を減少させることが示された。これは近隣植生の促進効果と競争効果の多寡によって決定された結果であると考えられる。さらに、この周囲の近隣植生の効果の差異は2種の光合成速度の差を減少させた。このことから、幼木周囲の近隣植生が森林形成における多種共存に貢献している可能性が示唆された。