| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-02 (Oral presentation)
材密度の高い樹種は、水輸送機能の不全(=通水欠損)を起こしにくいため、乾燥ストレス耐性が高いといわれている。しかし近年、長期的な乾燥下で、材密度の高い種が低い種よりも通水欠損を起こしやく、枯死しやすいことが報告された。一般的に、材密度の高い種は繊維細胞の割合が高く、水輸送機能の維持能力が高い。一方で、糖の貯蔵組織である柔細胞の割合が少ない傾向にある。また、樹木は糖を利用して通水欠損から回復するということも知られている。以上より、長期的な乾燥条件下では、材密度の高い樹種がより通水欠損を起こすという逆転現象は、樹木の糖貯蔵が関係している可能性がある。
小笠原諸島父島にある乾性低木林は国内では珍しく強い乾燥ストレスがかかる森林であり、多様な材密度を持つ樹種で構成される。父島は2020年の夏に長期の無降雨期間を経験し、乾性低木林は乾燥による強いインパクトを受けた。2019年と2021年の夏は頻繁に雨が降っていたためこのような乾燥はみられなかった。小笠原の乾性低木林に生育する、材密度の異なる20種の樹木を対象に樹木の水と糖利用特性の年変化を比較したところ、2つの結果が得た。
1) 極度に乾燥した夏では、材密度が低い樹種だけでなく高い樹種も、通水欠損していた。
極度に乾燥した夏で材密度の高い樹種ほど大きく水ポテンシャルを低下させたことから、材密度の高い樹種は材密度の低い樹種より大きな乾燥ストレスがかかっていたと考えられた。
2)湿った夏では、材密度の高い樹種が、より多くのデンプンを貯蔵していた。また乾燥した夏で材密度の高い樹種ほど多くの貯蔵糖を消費した。貯蔵組織が多い材密度の低い樹種が糖を多く貯蔵するわけではないという、材密度の違いによる糖利用戦略の違いを示した。
以上から、乾燥強度と頻度が増加すると、材密度が低い樹種だけではなく、乾燥に強いとされた材密度の高い樹種が、貯蔵糖枯渇により枯死するという可能性が示唆された。