| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-04  (Oral presentation)

ダイズの栽培化に伴う葉の生産性と被食防御の変化
Changes in leaf productivity and resistance to herbivores during soybean domestication

*戸田風香, 及川真平(茨城大学)
*Fuka TODA, Shimpei OIKAWA(Ibaraki Univ.)

栽培化に伴う作物の生産性の向上が、資源を巡るトレードオフの結果として防御能力の低下をもたらした、という仮説が提唱されている。この仮説はいくつかの作物で検証されてきたが、一貫した証拠は得られていない。生産性としてよく調査されるのは個体レベルのバイオマスや種子生産量であり、一方、防御能力としては葉内の二次代謝物質量が定量されることが多い。しかし、この仮説を適切に検証するためには、生産性と防御能力の両方を、同時期に同じ資源を奪い合う同一の器官で調査するべきである。本研究では、ダイズとその野生祖先種ツルマメを対象に、葉の光合成速度、伸長速度、容積密度、総フェノール濃度、縮合タンニン濃度を定量した。植物の多岐にわたる防御手段を全て定量することは現実的には不可能であるため、栽培化に伴う葉の防御能力の変化が、結果として昆虫(ハスモンヨトウ)の葉摂食量と相対成長速度にどのように影響するのかも調べた。葉の光合成速度と伸長速度、そして総フェノール濃度はツルマメよりもダイズで高かった。葉の容積密度は種間で異ならなかった。いずれの種においても、葉の縮合タンニンは検出されなかった。これらの結果は、上記の仮説を支持しない。栽培化に伴い葉の総フェノール濃度と容積密度が低下していないのにもかかわらず、ツルマメよりもダイズの葉を食べた昆虫の方が葉の摂食量が多く、相対成長速度が高かった。これは、栽培化の過程で総フェノール濃度と容積密度以外の防御能力が低下した可能性を示唆する。しかし、ハスモンヨトウにツルマメの葉を与えるとよく摂食したが、ツルマメとダイズの葉を同時に与えるとよりダイズの葉を摂食したことから、栽培化の過程で葉がより質が高い、魅力的な食物になった可能性が示唆される。そのため、防御能力が低下していなくても摂食されやすくなったのかもしれない。


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