| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-06 (Oral presentation)
北日本の日本海側地域は温帯多雪域であり、その中・高標高域は春遅くまで積雪が残る「消雪遅延地」となっている。消雪遅延地の春の温度環境についてみると、積雪下と林冠の間で季節の進行に違いがあることから、早期開葉樹種については、このような違いが樹体上下間の活動時期のミスマッチを起こす可能性がある。こうした消雪遅延地での開葉日の進化は、ミスマッチを軽減する選択圧と他個体との競争力を高める選択圧とのバランスで決まると考えられる。一方、多雪地では樹幹の根元周りで消雪が早く進行するという現象(根開け)が起こるため、こうしたミスマッチを軽減する季節性を進化させている樹種は、根開け日から消雪日までの間に展葉すると予想される。また、根開けは小径木ほど遅く生じることから、根開けによる消雪早期化が展葉時期の幹サイズ依存性に関与しているかどうかも問題となる。以上の仮説を検証するため、ブナの林冠木を対象に、青森県八甲田連峰に調査地を10地点設定し、カメラによる開葉・消雪の観測と気温の計測を行った。このうち4地点については目視により開葉と根開けの観察を行い、データを分析した。カメラによる観測の結果、消雪が遅い場所ほど展葉に必要な積算温度が大きくなること、また、消雪遅延地では根開けから消雪日までの間に展葉することが明らかとなった。この結果は上記の仮説と矛盾しない。さらに目視による観察の結果、消雪遅延地の集団内において幹サイズが大きくなるほど根開け日が早くなり、また幹サイズと展葉日との間に負の相関が認められたが、根開け日と展葉日との相関は認められなかった。このことから、林冠木の展葉時期のサイズ依存性に根開けによる消雪早期化が関与している可能性は低いと考えられる。以上の結果は、樹木と積雪との間の物理的・進化的な相互作用が消雪傾度に沿った展葉時期の種内変異をもたらしていることを示唆している。