| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-07 (Oral presentation)
夏緑樹林には多様な林床植物が生育し、その多様性は森林を構成する樹木を上回る。多くの林床植物は根圏でアーバスキュラー菌根菌(AM菌)と共生しているが、AM菌と密接に共生するものから、AM菌とは共生しないで根を細く枝分かれさせるものまで、細根形質には大きな種間変異が存在する。宮城県田代川(山地渓流)の流域では、河畔から緩やかな斜面を登るにつれて林床植物の種多様性が低下していく。一般に、谷は湿潤かつ富栄養であり、尾根は乾燥かつ貧栄養であることを考えると、斜面の上部ほど土壌栄養分の獲得を菌根菌に強く依存する植物種が選別されている可能性がある。本研究では、複数の斜面に沿って設けた34ヶ所のプロット(各25 m2)に出現する林床植物を対象として、(1)細根形質はどのような種間変異を示すか、(2)斜面の上部ほど菌根菌に土壌栄養分の獲得を強く依存する植物が多く見られるかについて分析した。出現頻度が比較的高かった植物種を対象に、5形質を測定して主成分分析を行ったところ、第1主成分にはAM菌感染率と平均直径、分枝頻度、SRLが大きく寄与しており、無機栄養分の獲得におけるAM菌への依存度を反映していると考えられた。次に、各プロットにおける細根形質の加重平均や多様性が、斜面に沿ってどのように変化しているのかを調べた。その結果、斜面の上部ではSRLが小さく、平均直径が大きいなど、菌根菌への依存度が高い傾向が見られたほか、細根形質の多様性(functional dispersion)も斜面を登るにつれて低下した。これらのことから、斜面の上部では無機栄養分の獲得に関して強い環境フィルタリングが作用し、種多様性の低下に寄与している可能性が示唆された。