| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-02 (Oral presentation)
海岸砂丘は開発や海岸浸食の影響から世界的に面積が減少しており、保全が必要とされる生態系である。近年海外では、海岸砂丘を二酸化炭素(CO2)の吸収源として評価し、その社会的価値を高めることで保全を推進しようとする動きがある。しかし、海岸砂丘生態系におけるCO2の吸排出(CO2フラックス)に関するデータは非常に限られている。また、海岸砂丘では植生の分布が汀線からの距離に従って帯状に変化するため、CO2フラックスに関する海浜植物種毎の変動パターンを把握することが必要となる。そこで本研究では、海岸砂丘におけるCO2フラックスの時空間変動と海浜植物の関係性を明らかにすることを目的とした。
本研究では鳥取大学乾燥地研究センター敷地内の海岸砂丘における、カワラヨモギ、ハマゴウ、コウボウムギ、ケカモノハシが優占する各群落を観測対象とした。2021年6月から12月まで、毎月1~2回、CO2分析計とデータロガーを内蔵したコントロールボックスと透明な自動開閉チャンバー(50 × 50 × 50 cm)を用い、CO2交換速度および近傍の土壌呼吸速度を測定した。CO2交換速度測定の際は、段階的に遮光処理を行って光合成の光反応曲線を導き、完全遮光下で生態系呼吸速度も測定した。また、光合成有効放射、気温、気圧、降水量、地下30 cmの地温と土壌水分を記録した。
土壌呼吸速度、生態系呼吸速度ともに地下30 cmの地温と有意な指数関数的相関がみられた。一方で、これらの呼吸速度と土壌水分との間には、カワラヨモギ区以外、有意な関係が認められなかった。これは、2021年8月の降水量が例年より著しく多く、夏季の乾燥影響が小さかったためと考えられた。観測期間において、ケカモノハシ区はCO2の吸収源、ハマゴウ区はわずかなCO2の吸収源、カワラヨモギ区、コウボウムギ区はCO2の排出源であった。そのため海岸砂丘生態系のCO2収支を面的に評価する上では、各海浜植物の分布を詳細に把握することが必要である点が示唆された。