| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-03  (Oral presentation)

安定同位体比から見たダム湖の大型淡水魚における化学合成細菌の利用
Contribution of chemoautotrophic bacteria to food source of freshwater megafish in a reservoir using multiple stable isotopes

*目戸綾乃(京都大学), 大手信人(京都大学), 能勢貴司(京都大学), 梶谷浩希(京都大学), 大西雄二(京都大学), 木庭啓介(京都大学), 荒井修亮(水産大学校), 光永靖(近畿大学), 久米学(京都大学), 西澤秀明(京都大学), 児嶋大地(京都大学), 横山綾子(京都大学), Thavee VIPUTHANUMAS(Dept. of Fisheries, Thailand), 三田村啓理(京都大学)
*Ayano MEDO(Kyoto University), Nobuhito OHTE(Kyoto University), Takashi NOSE(Kyoto University), Hiroki KAJITANI(Kyoto University), Yuji ONISHI(Kyoto University), Keisuke KOBA(Kyoto University), Nobuaki ARAI(National Fisheries University), Yasushi MITSUNAGA(Kindai University), Manabu KUME(Kyoto University), Hideaki NISHIZAWA(Kyoto University), Daichi KOJIMA(Kyoto University), Ayako YOKOYAMA(Kyoto University), Thavee VIPUTHANUMAS(Dept. of Fisheries, Thailand), Hiromichi MITAMURA(Kyoto University)

 成層期の湖沼は、表層付近の酸化環境で光合成一次生産が上位の消費者の生産を支える。一方、酸化・還元境界層においては、化学合成微生物が還元環境由来の化合物を利用して一次生産をおこなうことが知られている。しかし、酸化層の動物による還元層に沈降した物質の再利用を調べた研究例はまだ少ない。本研究は、ダム湖に生息する大型魚類・カイヤン(Pangasianodon hypophthalmus)に着目し、炭素・窒素・硫黄安定同位体比を用いて還元環境由来の物質のフローを調べることを目的とした。
 調査は、2019年8-9月から11-12月にタイ国・ケンカチャン湖でおこなった。調査地で採取されたカイヤン(稚魚25個体 [全長37–50 cm]、成魚11個体 [全長80–106 cm])から筋肉を採取し、炭素・窒素・硫黄安定同位体比を測定した。また、付着藻類、懸濁態有機物(POM)の炭素・窒素安定同位体比を光合成一次生産者の基準とした。さらに、堆積物中の硫化物と水中の溶存硫酸イオンに含まれる硫黄安定同位体比をそれぞれ還元環境および酸化環境由来物質の基準とした。
 ダム湖に生息するカイヤンは、成魚と稚魚の間で異なる安定同位体比の特徴を示した。カイヤンの成魚の炭素安定同位体比は付着藻類とPOMの中間の値を示し、窒素安定同位体比は付着藻類とPOMよりも高かったことから、光合成一次生産者を摂食していることが示唆された。一方で、カイヤンの稚魚は低い炭素・窒素安定同位体比を示し、光合成一次生産者以外の生産者も摂食していることが示唆された。さらにカイヤンの稚魚は、溶存硫酸イオンよりも低い硫黄安定同位体比を示し、還元環境由来の物質を取り込んでいたことが示唆された。演者らがおこなった先行研究により、カイヤンの稚魚における細菌由来の有機物の摂取が示唆されていることから、還元環境で生成された無機物が化学合成細菌を介して有機物へと変換されたあと、本種の稚魚の餌源として体内に取り込まれると推察された。


日本生態学会