| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-06  (Oral presentation)

無肥料栽培圃場と慣行農法圃場の土壌化学性の違い:流域管理の視点から
Soil chemical properties of unfertilized and conventional farms: from the viewpoint of watershed management

*松﨑慎一郎(国立環境研究所), 渡邊未来(国立環境研究所), 高津文人(国立環境研究所), 中塚博子(東京農業大学)
*Shin-ichiro MATSUZAKI(NIES), Mirai WATANABE(NIES), Ayato KOHZU(NIES), Hiroko NAKATSUKA(Tokyo Univ. of Agriculture)

 農業景観が広がる流域では、畑地からの窒素やリン等の栄養塩負荷が河川や湖沼の水質悪化の要因となっている。しかし食糧はわれわれにとって欠かせない。食糧生産を維持しながら、いかに環境への負荷を減らせるかが重要となる。有機農業に取り込んでいる農家戸数は全体の1%にも満たないが、このような農法の転換が、栄養塩負荷の低減につながるか評価する必要がある。本研究では、有機農業の中でも無肥料・無農薬で作物を栽培する農法(以下、無肥料栽培)に着目し、窒素の浸透流出の観点から、本農法の土壌の化学性分析を行った。
 富里市、山武市、行方市、さいたま市で行なわれている無肥料栽培圃場とその周辺の慣行農法圃場の表層土壌(0~5cm)を採取し、風乾土の化学性を調べた。その結果、富里市、山武市、行方市の無肥料栽培圃場では、慣行農法圃場と比べ、土壌の電気伝導度、硝酸濃度(風乾土の水抽出)、全窒素含量が有意に低く、またC/N比は有意に高かった。pHと炭素含有率では違いは見られなかった。これらの結果から、無肥料栽培圃場では、畑から地下へ溶脱する窒素が少ない可能性が示唆された。一方、さいたま市の無肥料栽培圃場では、いずれの項目も慣行農法と有意な違いは認められなかった。富里市、山武市、行方市の無肥料栽培圃場は、慣行農法から転換して数十年経過しているのに対して、さいたま市の無肥料栽培圃場は転換後4~5年しか経過していないことから、無肥料栽培への転換年数が一つの要因として考えられた。本発表では、今後の計画も含めて、無肥料栽培への転換が栄養塩負荷削減のオプションとなりうるか議論したい。


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