| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-01  (Oral presentation)

安定同位体比測定を用いて宿主ー寄生関係はどこまで解明できるか
Can stable isotope analysis reveal the host-parasite relationships in the Lake Biwa ecosystem?

*木下桂, 後藤晶子, 大西雄二, 福島慶太郎, 木庭啓介(京都大学 生態研)
*Kei KINOSHITA, Akiko GOTO, Yuzi ONISHI, Keitaro FUKUSHIMA, Kesuke KOBA(Kyoto Univ. CER)

 水域生態系において、そこで生息している生物の体内から蠕虫類(吸虫類・条虫類・線虫類等)や、体表からは寄生性の甲殻類が見つかることがある。蠕虫類等の寄生生物については、発育ステージごとに宿主を変えながら成長していくものがおり、宿主を変えていくにあたって、宿主として利用している生物間の「食う-食われる」関係を巧みに利用していることが知られている。寄生生物は、生活史において生態系内の食物網と密接に関わりを持つが、生態系内の寄生生物の役割や栄養段階といった基礎的情報は断片的にしか知られていない。
 生態系での生物の捕食-被食関係を明らかにしていく手法として、安定同位体比測定が用いられてきた。この手法は、生物の捕食-被食関係に伴って同一の元素より重い安定同位体が捕食者に濃縮される現象を利用している。安定同位体比測定を用いた宿主-寄生関係の研究からは、従来の捕食-被食関係と異なる同位体濃縮が報告されている。そのため、宿主と寄生生物間の栄養関係は評価できていない。その要因として、寄生生物が餌利用している宿主部位を正確に評価できていないと考えられる。そこで本研究では、淡水生態系の宿主と寄生生物間の栄養関係を明らかにするために、琵琶湖生態系における魚類と寄生生物を研究対象として、寄生生物が実際に餌利用している宿主部位を特定することによって宿主-寄生間の栄養段階の推定を行った。寄生生物が餌利用している宿主部位を特定することにより、寄生生物と宿主間の栄養関係の評価を行った。また、一部の寄生生物の分類群においては、やはり生活史や餌利用を考慮しても説明できない特異な同位体濃縮を示した。このような生物については、アミノ酸・脂肪酸分析が有効であるかについても紹介する。


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