| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-04 (Oral presentation)
異なる生態系間における生物や物質の移動はそれぞれの生態系において重要な役割を果たすことが知られており、例えば河川―森林間では森林から供給される陸生昆虫が淡水魚類の食性、ひいては底生無脊椎動物及び付着藻類の生物量を変化させることが知られている。一方で、日本の淡水魚類の約半数は生涯のうちに河川と海洋を往来する通し回遊魚であるが、こうした河川-海洋間の生物の移動が河川生態系にもたらす影響については知見が乏しい。ハゼ科魚類は多数の個体が集団で河川に加入し、餌生物である底生無脊椎動物を捕食するため、底生無脊椎動物の個体数や群集構造に影響をもたらすことが推測される。以上より、本研究では小型通し回遊魚(ハゼ科)の集団加入が底生無脊椎動物群集にもたらす影響について明らかにすることを目的とした。
佐渡島に位置する4つの沿岸河川において、下流域で魚類及び底生無脊椎動物の定量採捕を4月、5月及び6月の計3回実施した。採捕された魚類の大半を占めたハゼ科ウキゴリ属の加入個体はハエ目ユスリカ科の幼虫を主要餌資源とすることから、集団加入によるハエ目個体数の動態(当月個体数を先月個体数で除した値。以下ハエ目変化率)への影響をGLMによって評価した。
GLMの結果、佐渡島北西部の外海府では加入個体数とハエ目変化率との間で有意な負の関係が認められた。この結果は、ウキゴリ属の加入個体がハエ目を捕食したことによる直接効果がもたらした影響だと考えられる。一方で、佐渡島北東部の内海府では加入個体数とハエ目変化率との間に統計的に有意な関係は認められなかった。この要因として、内海府は外海府に比べ加入個体数が少なかったために、ハエ目変化率に影響を及ぼすほどには捕食圧が高まらなかったことがあげられる。
以上より、小型通し回遊魚の集団加入は底生無脊椎動物群集に影響をもたらしており、加入個体数の多寡はその影響の強度を変化させることが示された。