| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-05  (Oral presentation)

漁獲が引き起こすレジームシフト:魚類個体群のステージ構造と捕食-被食関係の逆転
regime shift induced by fishing : Stage structure of fish populations and reversal of predator - prey relationship

*川田尚平, 瀧本岳(東京大学)
*Shouhei KAWATA, GAKU TAKIMOTO(Univ. Tokyo)

レジームシフトは急激な生態系の変化のことであり、多くの海洋系の生物群集で発生している。レジームシフトが発生すると、ある生態系の状態が異なる状態に変化し、その後環境などが変化しても元の状態に戻らず、異なる状態に留まることになる。レジームシフトは漁業など人為的な活動が原因で起こる場合がある。乱獲により栄養段階上位の魚類の個体数が減少すると、漁獲量を減少させても魚類の個体数が回復しないという報告がある。また、レジームシフトは人為的な影響と生物間相互作用の両方が原因で発生する場合がある。バルト海では捕食者であるパーチの漁業と、被食者であるトゲウオとパーチとの捕食-被食関係の逆転により、近年パーチ占有状態からトゲウオ占有状態へとレジームシフトが起こっていると報告されている。捕食-被食関係の逆転とは、捕食者が幼体の時は被食者に捕食されるが、捕食者が成体になると被食者を捕食するようになる捕食-被食関係である。バルト海ではパーチ成体の漁獲と、トゲウオによるパーチ幼体の捕食が発生することでレジームシフトが起こっている。このように、漁業と捕食-被食関係の逆転がレジームシフトの要因となりうるが、漁業と捕食-被食関係の逆転に注目した理論研究は少ない。そこで本研究では、群集に対する捕食者成体への漁業と捕食-被食関係の逆転の影響を調べるため、数理モデルを構築し捕食者成体の漁獲率と捕食-被食関係の逆転の関係について解析を行った。解析の結果、捕食者幼体に対する消費者の捕食率が消費者に対する捕食者成体の捕食率より強い場合、成体の漁獲率が増加するとレジームシフトが起こることが分かった。逆に、幼体に対する消費者の捕食率の方が弱い場合、レジームシフトは起こらなかった。本研究は、捕食-被食関係の逆転が起こる群集において成体の漁獲率の増加がレジームシフトを発生させる要因になることを示した。


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