| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-09  (Oral presentation)

腐肉における甲虫相の遷移は何によって引き起こされる?実験的アプローチによる解明
Elucidating the mechanism of temporal succession in beetle assemblages in carrion

*松島義治, 山中康如, 橋詰茜, 中島啓裕(日大・生物資源)
*Yoshiharu MATSUSHIMA, Yasuyuki YAMANAKA, Akane HASHIZUME, Yoshihiro NAKASHIMA(Nihon University)

脊椎動物の死体上で展開する甲虫目の「遷移」は古くから知られているが,そのメカニズムについては明らかにされていない.長年,昆虫相の遷移メカニズムとして,促進モデル(初期入植者による環境や資源の物理的状態改変が後続種の入植を可能にする)が妥当であるとされてきた.しかし,近年の実証的な研究によって否定されつつある.そこで本研究では,肉の状態を実験的にコントロールし,腐肉を利用する甲虫が何を手掛かりに資源探索をしているのかを観察することで,腐食性甲虫目の遷移メカニズムを明らかにした.北海道二海郡八雲町の演習林内に,肉の酸化度,微生物による腐敗度,ハエ幼虫による消費度合いが異なる肉を入れたピットフォールを5日間,21ヶ所に設置し,ナガゴミムシ亜科,オサムシ亜科,シデムシ科,ハネカクシ科がどの状態の肉に誘引されたかを調べた.この結果,(亜)科によって異なる肉に誘引されることが分かった.ナガゴミムシ亜科およびオサムシ亜科は肉の酸化度合が高くなるにつれて捕獲されにくくなった.つまり分解初期に発生する揮発性物質に反応していることが分かった.シデムシ科やハネカクシ科は微生物による腐敗がある程度進んだ肉で多く捕獲された.さらに,シデムシ科は3日目にハネカクシ科は4日目にと,入植のタイミングに差が生じていた.本研究の結果から,死体上で見られる昆虫相は,新鮮な状態の肉に誘引されている種,微生物による腐敗を手掛かりに誘引されている種によって構成されていると考えられる.すなわち,腐肉における甲虫相の遷移は,促進モデルのような単一のメカニズムによって引き起こされるわけではなく,個々の種の肉に対する選好性の違いが,腐肉を利用する優占種の個体数の時間変化を生み出し,その結果として生じる現象であることが示唆された.


日本生態学会