| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-01 (Oral presentation)
奈良県にある近畿大学農学部キャンパス内の里山小渓流においてニセミヤマシマトビケラ属ホソオニセミヤマシマトビケラ Homoplectra gracilis(以下、ホソオ)の幼虫が発見された。里山におけるトビケラ類の研究は遅れており、ニセミヤマシマトビケラ属は幼虫が判明した種が少なくその生態や生活史、生息地に関する報告がほとんど存在しない。本研究では本種の形態について報告するとともに、その幼虫期の生息環境を解明することを目的として調査を行った。調査地において毎月の調査で見つかったホソオの個体はエタノールで保存して持ち帰り形態を観察した。ホソオの微生息場所の環境を明らかにするため、ホソオの採取時に、幼虫が営巣していた基質の種類とサイズ、巣材を記録し、基質直上流の水深、流速を測定した。さらに調査地のホソオ密度や環境を調べるため毎月定量調査を実施した。25cm四方の区画をランダムに4箇所選定し、水面幅、流速、水深を記録しながら実施した。採取した底生動物は持ち帰り同定して調査地の生物相を調べた。定量調査の際に採取できた有機物はCPOM、FPOM、LWDに分けて測定し、調査地の有機物量を推定した。ホソオの食性について調べるため、採取した個体のうち2齢から終齢までの幼虫について消化管内容物を観察した。形態観察の結果、頭盾板前縁に三角形の突起があることが確認された。定量調査で取得したデータから調査地が狭く浅い細流であることがわかった。巣材のこだわりは薄く、基質は植物質が多かった。ホソオ生息地には植物質が多量に存在しており、それが基質選択に関わっていることが推測された。消化管内容物からはデトリタス片と植物片が確認され、成長につれて動物片も見られるようになった。多くのシマトビケラ科の蛹の中肢には毛が密に生え遊泳肢を形成するが、ホソオの蛹には毛がまばらにしか生えていなかった。これは羽化時に積極的に泳ぐ必要性のない、河川源頭部の環境に適した形態だと推測された。