| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-02 (Oral presentation)
ヤスデ特異的な寄生性線虫であるRhigonematomorphaは回虫の側系統にあたり、主に世界中の熱帯から亜熱帯にかけて約200種が知られる。これまで一部が宿主特異性を有すること、宿主のヤスデには高い割合で寄生することが知られてきた。しかし生活史が不明であり、従来の知見に生態的な背景は考慮されてこなかった。本研究では石垣島、西表島に分布するサダエミナミヤスデ(以下、サダエ)とヤエヤママルヤスデ(以下、ヤエマル)の腸内線虫相を比較し、サダエの累代飼育による線虫の生活史の推定を試みた。腸内線虫相を調査した結果、サダエからは3種の線虫が得られた(n=30)。最優占種はBrumptaemilius sp.で、Thelastomatidae sp.は最も少なく、Rhigonema sp.はサダエの幽門弁周辺に局在していた。ヤエマルからはBrumptaemilius sp.を除く2種の線虫が得られ、サダエにおいて最も少なかったThelastomatidae sp.が最優占種であった(n=7)。この結果は狭い島嶼内に2種のフトマルヤスデが同所的に分布するにも関わらず、Brumptaemilius sp.はサダエに特異的な寄生線虫であることを示唆する。サダエの累代飼育の結果、産卵の際に卵を糞で覆う(卵糞と呼称)ことを観察した。この卵糞から孵化したサダエの幼虫には3種の線虫が寄生していた(n=20)。寄生線虫の感染経路を調査するために卵糞を解剖したところ線虫が確認されたのに対し、通常の糞からは確認されなかった(n=20)。そこで卵を覆う糞を取り外して煮沸した後、低融点アガロースと煮沸済の糞を用いて人工卵糞を作製した。人工卵糞から孵化したヤスデを解剖した結果、線虫の寄生は確認されなかった(n=15)。以上のことから線虫の生活史において、卵糞が新たな宿主に感染するための鍵である可能性が示唆された。