| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-03 (Oral presentation)
海産無脊椎動物の多くでは、岩礁や砂浜での固着的生活(ベントス)の成体が産卵し、孵った幼生はプランクトン生活を過ごし、成長してから着底して底生生活に入る。しかし幅広い分類群で、プランクトン生活期をもたず、ベントスの成体が小さなベントス個体を産む「直達発生」のものがみられる。後者は、緯度が高くなるほど、また水深が深いほど多い。加えて、卵から孵った幼生がプランクトンになるが、餌は食べずに短期間で着底するものがある。1つの種が異なる生活史をもつことはまれだが、食物である海藻の葉緑体をしばらく体内に生かして自ら光合成を行うウミウシで知られている。
これら3種類の生活史の間で、いずれが進化するのか、複数が共存するか、を考える進化ゲームを解析した。仮定:1年生の生活を想定し、春に繁殖する。直達発生型と非摂食プランクトン産生型では、生まれた個体が直後からベントス生活をする。摂食プランクトン産生型では、夏季はプランクトン生活をして、秋に着底してベントス生活に加わる。ベントス生活の個体はタイプに共通のlogistic式に従う。ベントス生活をする生息地は物理的・生物的撹乱を受け、続けて使用ができなくなる。成体は繁殖直前に限定的な分散を行う。
モデルの解析の結果:[1]プランクトン時期での成長率や生存率が高い生産的な環境では摂食プランクトン産生型が進化する。[2]そうでないと他の2つのタイプが進化するが、(a)非摂食プランクトンを持つコストが大きい、(b)ベントスの生息地が安定である、(c)直達発生型の成体が分散する、という状況では直達発生型が進化し、逆の状況で非摂食プランクトンを持つ型が進化する。[3]複数の生活史の生産性が似ており、いずれかに密度依存性が強い場合には、1種内に両者の共存が進化する。以上は、観測されている海洋無脊椎動物の多様な生活史の進化パターンをうまく説明できる。