| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-01 (Oral presentation)
培養時間経過に伴って微生物の増殖速度が変化して増殖曲線が描かれる。Monodの式は増殖速度と制限基質との間の関係性を平易な数理モデルで説明している。制限された栄養源を基に微生物は増殖することが見出され、主に増殖期から定常期に至るまでを再現している。後に基質から生成された代謝物を考慮した平易なモデルが生物工学分野で利用されている。しかし、制限基質から生成された代謝物を分解することを考慮し、培養後期での増殖性に着目した研究は見落とされてきた。
そこで培地内の微生物について、制限基質を消費して得られたエネルギーを微生物自身の増殖に利用する集団と制限基質の代謝で生じた生成物を分解する集団の2つに分けて考える。1種の微生物が複数の仕事を分業することを踏まえた数理モデルを構築し、数値解析・パラメータ依存性試験・実データ解析を実施した。微生物のエネルギー分業システムに着目した本モデルから、解析的には表現できなかった増殖期の詳細や、定常期の詳細を理解することができた。パラメータ依存性試験から、微生物は急激に基質を消費して増殖するタイプと生育環境内をきれいにしながら緩やかに増殖するタイプの2つの戦略をとることが分かった。実データ解析では、硝酸条件下でのPseudomonas balearica RAD-17のデータを用いて解析した。パラメータフィッティングから、本モデルは細胞密度だけでなく利用する基質や代謝物も推定可能だった。そして、パラメータ解析からP. balearicaは培地内をきれいにしながら緩やかに増殖するタイプの細菌だと示唆された。今後、我々が提案するエネルギー分業システムに基づく微生物の増殖モデルによって、培養条件によって変化する微生物の機能集団の理解が深まると考えられる。