| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) F03-03  (Oral presentation)

フジツボにおける海水溶存性着生誘起フェロモンの濃度依存性および種特異性の検討
Evaluation of concentration dependences and species specificity of the waterborne settlement inducing protein in barnacles

北出汐里(兵庫県立大学), 遠藤紀之(姫路エコテック(株)), 松村清隆(北里大学), 安元剛(北里大学), 井口亮(産業技術総合研究所), *頼末武史(兵庫県立大学, 人と自然の博物館)
Shiori KITADE(Univ. of Hyogo), Noriyuki ENDO(Himeji Ecotec Co.,Ltd.), Kiyotaka MATSUMURA(Kitasato Univ.), Ko YASUMOTO(Kitasato Univ.), Akira IGUCHI(AIST), *Takefumi YORISUE(Univ. of Hyogo, Mus. Nature Human Activities)

海産無脊椎動物の多くは浮遊幼生期に移動分散を行う。幼生は生息場所の物理化学情報や同種個体から分泌されるフェロモンなどを頼りに好適な着生場所を選択することが知られている。とりわけ成体の移動能力が著しく低い固着性生物では、幼生の着生場所選択が生残や繁殖に大きく影響する。
フジツボ類は潮間帯で優占する固着性甲殻類で、近傍の個体と交尾をする。そのため、幼生が同種個体を認識し、近傍に着生して群居を形成することが知られている。このプロセスには2種類のタンパク質性フェロモンが関与している。1つはSIPCと呼ばれる基盤吸着性フェロモンで、着生基盤上で種特異的に幼生の着生を誘起する。SIPCの着生誘起活性は濃度依存的に変化することが知られ、過剰量のSIPCは群居の過密化を軽減させるために忌避的に作用する。WSPと呼ばれるもう1つのフェロモンは海水溶存性で、拡散して比較的広域で作用する。しかし、WSPの種特異性や濃度依存性は未解明である。
本研究では、大腸菌発現系を用いてタテジマフジツボのリコンビナントWSPを作成し、着生誘起活性をコントロール(0 nmol l-1)、1 nmol l-1、10 nmol l-1、100 nmol l-1の4濃度で検討した。その結果、高濃度下においては同種(タテジマフジツボ)の幼生の着生が誘起される一方で、低濃度下ではコントロールよりも着生率が低下することが明らかとなった。低濃度のWSPは幼生にとって少し離れた場所に同種個体が存在することを示しており、幼生に至近要因として作用するSIPCの探索を継続させる効果があるのかもしれない。一方で高濃度のWSPはそれ自体がすぐ近傍に群居が存在することを示唆し、着生を直接誘起している可能性がある。これらの仮説を検証するには、今後SIPCとWSPの交互作用について検討していく必要がある。また発表では、タテジマフジツボのリコンビナントWSPに対する近縁他種の幼生への効果についても報告する。


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