| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-05 (Oral presentation)
香港と九州の間に位置する南西諸島に生息するツマベニチョウ Hebomoia glaucippe の越冬態は、幼虫の餌となるホスト植物依存的に休眠が誘導される香港産個体や日長依存的に休眠が誘導される九州産個体と異なり、不完全である。南西諸島のツマベニチョウはギョボク Crateva religiosa のみをホスト植物としており、ホスト依存的ではないが、必ず日長依存的な越冬様式をとるわけでもない。不完全さの原因として、南西諸島に生息する本種が高緯度地域への適応の過程にあることや台風による撹乱の影響が挙げられる。台風の強風によってギョボクの落葉が起こると、それに続いて年を跨がずにギョボクが萌芽し、冬期に葉が残ることがある。これによって冬季も幼虫のままである非休眠個体の越冬が可能となり、日長依存的な休眠個体が必ずしも有利にならないということが考えられる。
本研究では台風による攪乱を含め、南西諸島のツマベニチョウ個体数を制御する環境要因を探るために、2009年8月から2020年2月までの約10年間に石垣島で採集されたツマベニチョウの個体数データと気象情報を用いて、Convergence cross mapping (CCM)による時系列因果推論を行なった。使用したデータに含まれるノイズの影響によって予測の精度は低かったものの、主に最大風速と個体数の間で因果関係が検出された。さらに最大風速に閾値を設けて解析を行ったことで、風は主に個体数の減少に寄与する一方、風速15 m/s以上の強風は個体数の増加に貢献するということが示唆された。閾値を超えた最大風速のほとんどは7月から10月の間に発生しており、その多くが台風によるものであることが考えられる。加えて閾値を超えた最大風速が個体数に影響するまでの期間は長く、その期間中に台風によるギョボクの落葉と萌芽、新芽へのツマベニチョウの産卵が起こり、結果として台風による撹乱がツマベニチョウの個体数を増やす向きに働くという仮説と合致するものであった。