| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) F03-10  (Oral presentation)

マイクロサテライトDNAを用いた日本における野生イノシシの遺伝的集団構造解析
Genetic structure of wild boar (Sus Scrofa) populations in Japan

*澤井宏太郎(農研機構・動衛研), 荒川愛作(農研機構・畜産研), 谷口雅章(農研機構・畜産研), 暁波(農研機構・動衛研), 澤井美和(農研機構・動衛研), 大崎慎人(農研機構・本部), 山口英美(農研機構・動衛研), 早山陽子(農研機構・動衛研), 村藤義訓(農研機構・動衛研), 清水友美子(農研機構・動衛研), 近藤園子(農研機構・動衛研), 山本健久(農研機構・動衛研)
*Kotaro SAWAI(NIAH), Aisaku ARAKAWA(NILGS), Masaaki TANIGUCHI(NILGS), bo XIAO(NIAH), Miwa SAWAI(NIAH), Makoto OSAKI(NARO), Emi YAMAGUCHI(NIAH), Yoko HAYAMA(NIAH), Yoshinori MURATO(NIAH), Yumiko SHIMIZU(NIAH), Sonoko KONDO(NIAH), Takehisa YAMAMOTO(NIAH)

【背景と目的】2018年9月における豚熱発生以降、野生イノシシでの感染拡大が継続しており、感染拡大には個体の移動や、地域内での接触の有無が大きく影響していると考えられる。本研究では、マイクロサテライトマーカー30座位を用いて、国内の野生イノシシにおける広域的な遺伝的類縁関係および狭域的な遺伝的交流の障壁を明らかにすることを試みた。
【材料と方法】2014年から2019年にかけて国内のイノシシ生息域を網羅する40府県から合計1033検体を収集した。各検体からDNAを抽出し30座位のマイクロサテライトマーカーについてジェノタイピングを行った。十分なタイピング数が得られた26座位を用いて、広域的な生息地域間のイノシシの遺伝的関連性、移住の範囲を明らかにするためのクラスタリング解析を行った。さらに、個体間の狭域的な遺伝的交流の障壁となる環境要因を評価するため、捕獲地点の景観情報と組み合わせた景観遺伝学的解析を行った。
【結果と考察】個体間の共有アリル割合と、各集団間の遺伝的分化度を表すFst値の結果から、沖縄県の個体は他の集団から遺伝的に離れており、これはニホンイノシシとリュウキュウイノシシとの亜種による差と考えられた。クラスタリング解析では、サンプリング地域の近い個体は、同一の地域クラスタに含まれるか、もしくは近接する複数の地域クラスタの合成により表されていた。ただし一部の個体には、サンプリング地域から離れた遠方の地域クラスタが含まれていたことより、過去の移入などが示唆された。景観遺伝学的解析では、農地、海峡、都市部の環境要因が遺伝的交流の障壁として影響していることが明らかとなった。また、一般的に野生動物では地理的距離が離れるほど遺伝的差異は大きくなる傾向にあるが、本研究結果からは、距離的隔離よりも環境要因による隔離が優位であることが明らかとなった。


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