| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) F03-11  (Oral presentation)

環境DNAを用いた河川魚類分布を推定:DNAの動態を考慮した階層ベイズモデリング
Estimation of fish distributions in rivers using environmental DNA: a hierarchical Bayesian modeling with DNA dynamics

*伊藤青葉(東北大学), 香川裕之(東北緑化環境保全), 成田勝(東北緑化環境保全), 長田穣(水産機構・水資研), 近藤倫生(東北大学)
*Aoba ITO(Tohoku Univ.), Hiroyuki KAGAWA(TRK Co., Ltd.), Masaru NARITA(TRK Co., Ltd.), Yutaka OSADA(FRA), Michio KONDOH(Tohoku Univ.)

人間活動による生態系の劣化が懸念されるなか、生物群集変化を捉えることの需要はますます高まっており、生物調査・観測の高精度化が求められている。環境DNAを用いた生物調査は非侵襲的・低コストで、広い生物群を網羅できる性質から、生態系調査に広く使われるようになってきた。環境DNAとは生物が生息環境に残した排泄物や表皮、粘液に含まれるDNAの痕跡を指す。ある環境の水や土壌から抽出された環境DNAは、その地点における生物の在・不在や生物量、生息分布を推定するために利用できる。しかし、環境DNAから生物の分布を正しく推定するには、「環境DNAの動態」を考慮することが求められる。特に河川環境における環境DNAを利用した生物の分布推定においては、DNAの放出・流下・減衰が大きく影響する。我々は河川環境における環境DNAの放出・流下・減衰を明示的に考慮した階層ベイズモデルを構築し、河川における多地点環境DNA調査の結果から生物分布を推定する方法を考案した。この手法の有効性を確認するために、人工的に作成した擬似データを用いて、環境DNA調査データから生物分布を精度よく推定できることを示す。また、東北地方における3河川(北上川・阿武隈川・吉田川)の魚類を対象とした環境DNAメタバーコーディングデータ(一定間隔・多地点)を解析した。本研究では、多種の生物の情報を同時に得ることができるという環境DNAメタバーコーディングの特長を生かすため、SDMだけでなく種間相互作用を考慮できるJSDMも構築し結果を比較した。その結果、JSDMの方がSDMよりも精度良く生物分布が推定できることがわかった。本発表では、推定された魚類の分布の検討結果を報告するとともに、モデルの改善案や今後の展望、また、環境DNAを利用した河川生態系調査の今後の課題についても考察する。


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