| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) F04-01 (Oral presentation)
脊椎動物における体内受精の進化は、精子の運動環境を体外から体内へ変化させた。そのため、精子の特性は体内環境に適応進化したはずである。これまで、幅広い分類群の比較から、漠然と体内受精種は体外受精種より長い精子を持つと考えられてきた。しかし、系統の離れた種間の比較では様々な要因が交絡するため、受精様式の違いがどのように精子を進化させたのかは未だに不明である。多くの硬骨魚類は体外受精種であるが、ごく一部の硬骨魚類は哺乳類のように体内受精を行う。さらに、体外受精から体内受精の進化は複数回、様々な系統で起こったため、異なる受精様式を持つ近縁種同士で精子の比較解析が可能である。そこで、本研究では、精子の特性に影響を与えると予測される精子競争レベルの違いを考慮し、体内受精種と体外受精種を近縁に含む3つの分類群内(スズメダイ科vs.ウミタナゴ科、ハオコゼ科、フサカサゴ科vs.メバル科、シワイカナゴ科vs.クダヤガラ科、計11種)で、精子の形態、運動性、遊泳速度を比較することで、受精様式が精子特性に与える影響を検証した。その結果、これまでの予測とは異なり、精子の全長や鞭毛長は受精様式と関係がなく、むしろ精子競争レベルが高い種ほど長くなった。遊泳速度もまた、精子競争レベルが高くなると速くなり、精子全長と正の相関が見られた。興味深いことに、精子競争レベルが高い種ほど、全長に対して相対的に頭部長が短い精子を持っていた。一方で、精子の頭部は、体内受精種のほうが体外受精種より有意に細長かった。さらに、体外受精種の精子は海水のみで運動したのに対し、体内受精種は体内環境を再現した等張液のみで運動した。これらの結果は、系統種間比較解析からも支持された。本研究により、硬骨魚類における体内受精の進化は精子の頭部形態、運動性に強く関係するが、精子の全長や遊泳速度は精子競争が関係することを初めて明らかにした。