| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-03 (Oral presentation)
シュモクザメ科の魚類の頭部(cephalofoil)は,形態の特異さから様々な研究が行われてきた.cephalofoilが持つ機能として,ロレンチーニ瓶の増加,嗅覚や視覚能力の向上などが明らかにされている.また直進遊泳においてcephalofoilは流体抵抗を増加させ,cephalofoilの無いサメと比べて遊泳に必要な消費エネルギーがおよそ10倍になることが先行研究において示唆されている.一方,アカシュモクザメ(Sphyrna lewini)はメジロザメ(Carcharhinus plumbeus)よりも摂餌の際などに素早い旋回を行うことが確認されており,その原因はアカシュモクザメの身体断面の断面二次モーメントが小さく,身体が柔軟なためであると考えられている.Cephalofoilのサイズは胴体幅の2倍以上にも及び,旋回能に大きな影響を及ぼすことが予測されるものの,これまでの研究でcephalofoilと旋回能の関係は考慮されておらず,その流体力学的な影響も明らかにされていない.
本研究ではアカシュモクザメの旋回能に着目し,アカシュモクザメ頭部の簡易的なモデルを複数条件作成して数値流体解析を行い,モデルが流体から受けるトルクの値を算出し比較した.その結果,旋回時にcephalofoilの無いモデルよりも,cephalofoilの有るモデルの方が流体から受けるトルクの値が小さくなった.このことから,cephalofoilはアカシュモクザメの旋回能を上昇させる効果を持つことが示唆された.また,今回作成したモデルに対して直進遊泳を模擬した解析を行った結果,cephalofoilの有るモデルは流体抵抗が約9倍になり,先行研究と同様の傾向が確認できた.したがってアカシュモクザメのcephalofoilは直進遊泳能よりも,摂餌の際などに頻繁に用いる旋回能を上昇させるように進化したと考えられる.