| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-04  (Oral presentation)

「認知進化生態学」で紐解くエビ−ハゼ相利共生の実態と進化・維持機構
Unraveling the ecology, evolution and maintenance mechanisms of shrimp-goby symbiosis from the perspective of “cognitive evolutionary ecology"

*安房田智司(大阪市立大学), 山田泰智(大阪市立大学), 北口あやの(大阪市立大学), 横田克巳(東京大学, 大阪市立大学), 山内宏子(大阪市立大学), 幸田正典(大阪市立大学)
*Satoshi AWATA(Osaka City University), Taichi YAMADA(Osaka City University), Ayano KITAGUCHI(Osaka City University), Katsumi YOKOTA(The University of Tokyo, Osaka City University), Hiroko YAMANOUCHI(Osaka City University), Masanori KOHDA(Osaka City University)

 海産動物では多様な共生関係が知られるが、これらの報告事例の中には証拠に乏しい「お話」も多く、また、単純な生得的・反射的行動で関係が維持されると考えられてきた。しかし、このような従来の知見は根本から見直す必要がある。近年、我々は「魚類や甲殻類が高度な認知能力を持つ」という新たな観点から、行動・進化生態学、比較認知科学と脳科学を融合した新しい「認知進化生態学」を創成することを提案した(安房田・幸田 2021 日本生態学会シンポジウム)。この認知進化生態学研究から、テッポウエビーハゼの共生関係は、既存の知見よりも利害関係が複雑で、共生者間で目的に応じた情報伝達を使い分けるなど、高度な認知能力を駆使して関係を維持することが分かってきた。本発表ではこれらの研究を紹介する。エビ−ハゼの相利共生では、ハゼはエビの捕食者を警戒し、エビはハゼに巣穴を提供するというのが通説だった。しかし、我々は、新規の「双方向の給餌」仮説を提唱し、野外調査から、その仮説を支持する状況証拠が次々と得られている。底生動物食のダテハゼは自身の糞を餌としてニシキテッポウエビに与え、代わりにエビは巣外で砂を掘り返して底生動物をハゼに与えることが明らかになった。また、エビとハゼの一方もしくは双方を満腹にする野外給餌実験によって、「双方向の給餌」仮説を初めて実験的に証明した。さらに、ハゼは尾の振り方(回数や速度)を変えることで、エビに発する2種類のシグナル「警告」と「誘い出し」を使い分けることも明らかになった。このように、異なる物理的シグナルを使い分け、受信者に別の行動を誘発する例は、ヒトと家畜(ペット)の研究例だけである。今後も、認知進化生態学の視点で共生関係を捉え、行動観察を中心に様々な手法で研究を行うことで、生物の相互作用についての革新的な発見に繋がると期待される。


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